どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「しっかり……しっかりしてよ、グラウ! 戻ってこいっ!」
「う……」
「お前の王の命令だぞ! ──正気に戻れ! 騎士団長グラウ・ローゼオ!!」
「──はっ」
その瞬間、グラウの瞳に光が戻った。
馬乗りになったエミールを吹っ飛ばさんばかりの勢いで起き上がり、ガッと彼の両肩を掴む。
そうして、またぼろぼろと涙を零し始めた。
「エ、エミールでんか……いや、陛下? 生きて、る……?」
「生きてる! 生きてるよ! 見ればわかるでしょ! 気分は最悪だけどねっ!!」
「よ……よか……よかった……って、陛下ぁ! 口から血があああっ!?」
「いや、お前のっ! 飲ませたのも、グラウでしょっ!!」
ひとしきり騒ぎ立てたグラウは、ベッドサイドに置かれていた水差しからコップに水を注ぐ。
それを引ったくって口を濯いだエミールは、ベッ、と血を含んだ水をグラウに吐き掛けてやった。
血を飲まされたことへの意趣返しだ。
ところが、当のグラウは嫌がる素振りも見せない。
それどころか、血で汚れたエミールの口元を、甲斐甲斐しく手で拭い始めた。
「……ぼくは、どれだけ寝込んでいたの?」
「まる一週間です。今朝からは呼吸もか細くなり、栄養が足りずに衰弱していらっしゃるのかと思いまして、私の血を」
「いや、最悪。血の経口摂取で生きながらえるわけないじゃない。僕が吸血鬼にでもなったらどうするつもりだよ」
「問題ありません」
窓の外を見れば、太陽が西へと傾き始めているようだ。
グラウが人払いをしたのだろう。
部屋の中には、侍医どころか侍女の姿も見えなかった。
そもそもグリュン王家の侍医は第二王妃の腰巾着であったため、すでにこの世にはいないのだが。
現在グリュン王国を実質支配しているのは騎士団だ。
その長であるグラウに逆らえる者はおらず、主君に血を飲ませるなんて彼の暴挙を止められる者もいなかったのだろう。
グラウが耳を傾けるのは、もはやエミールの言葉だけとなった。
「う……」
「お前の王の命令だぞ! ──正気に戻れ! 騎士団長グラウ・ローゼオ!!」
「──はっ」
その瞬間、グラウの瞳に光が戻った。
馬乗りになったエミールを吹っ飛ばさんばかりの勢いで起き上がり、ガッと彼の両肩を掴む。
そうして、またぼろぼろと涙を零し始めた。
「エ、エミールでんか……いや、陛下? 生きて、る……?」
「生きてる! 生きてるよ! 見ればわかるでしょ! 気分は最悪だけどねっ!!」
「よ……よか……よかった……って、陛下ぁ! 口から血があああっ!?」
「いや、お前のっ! 飲ませたのも、グラウでしょっ!!」
ひとしきり騒ぎ立てたグラウは、ベッドサイドに置かれていた水差しからコップに水を注ぐ。
それを引ったくって口を濯いだエミールは、ベッ、と血を含んだ水をグラウに吐き掛けてやった。
血を飲まされたことへの意趣返しだ。
ところが、当のグラウは嫌がる素振りも見せない。
それどころか、血で汚れたエミールの口元を、甲斐甲斐しく手で拭い始めた。
「……ぼくは、どれだけ寝込んでいたの?」
「まる一週間です。今朝からは呼吸もか細くなり、栄養が足りずに衰弱していらっしゃるのかと思いまして、私の血を」
「いや、最悪。血の経口摂取で生きながらえるわけないじゃない。僕が吸血鬼にでもなったらどうするつもりだよ」
「問題ありません」
窓の外を見れば、太陽が西へと傾き始めているようだ。
グラウが人払いをしたのだろう。
部屋の中には、侍医どころか侍女の姿も見えなかった。
そもそもグリュン王家の侍医は第二王妃の腰巾着であったため、すでにこの世にはいないのだが。
現在グリュン王国を実質支配しているのは騎士団だ。
その長であるグラウに逆らえる者はおらず、主君に血を飲ませるなんて彼の暴挙を止められる者もいなかったのだろう。
グラウが耳を傾けるのは、もはやエミールの言葉だけとなった。