どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
 クリスの言葉をかき消すような大きな声が響き、私は眉を寄せました。
 ガン無視しておりましたが……さっきから、生肉生肉うるさいのがいますね。
 私は渋い顔をして、ここでようやく声の主に視線を向けます。
 
「生肉はけっこうです。そもそも、あなたはどなたなのですか?」
「オレ? オレ、ルー! これ、魔王様にもらった名前!」
「それはようございましたね。ところで──豚や鶏を生で召し上がるのは、絶対にやめた方がいいですよ」
「大丈夫! オレ、今まで一度も腹壊したことないもんっ!」

 元気いっぱいに答えた健康優良児は、灰色の毛並みをした狼でした。
 ただし、ヒヨコよりもガーゴイルよりも大きく、二本足で歩いて衣服を身に付けているところを見ると、ただの獣ではなく魔物でしょう。
 そういえば、十日前に執り行われた魔界の幹部会議にいたような気がしないでもないですね。
 話を邪魔されて口を尖らせたクリスがさりげなく触れていますが、その狼の魔物が木っ端微塵になる様子はありませんでした。
 そんな素性のわからない魔物が、ずずいっと顔を近づけてきます。
 ヒヨコが剣に手をかけつつ、私を背中に隠そうとしました。
 ここで、ガーゴイルが慌てて口を挟みます。
 
「こ、この方は! 人狼族の族長……えっと、今現在、一番強い人狼、ですっ!」
「まあ、そうなのですか? あなた、お強いの?」
「えっ? えへへへへ、そうみたい! よく、わかんないけど!」

 物理的には強くても、おつむの方はだいぶ弱そうです。
 ただし……

「お手」
「うんっ!」

 お手ができるくらい賢ければ、犬科としては十分でしょう。
 私が差し出した手のひらに、ルーとかいう人狼族の族長がさっと前足を乗せてきます。
 人の手指と同じ形ですが、モフモフの毛が生えているのと、手のひらの部分に肉球がありました。
 それにしても、でっかい肉球ですね。モミモミして差し上げます。
 するとルーは、しっぽをブンブンと振り始めました。

「えへ、えへえへえへ、アヴィスってかわいーなぁ! ねえ、オレのこと、パパって呼んでいいよ?」
「呼ぶわけないですよね。どうかしてます」

 まったく、どいつもこいつも。
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