どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜

「さっさと名乗り出ろ。でないと──ここにいる全員を殺すぞ」

 ゆっくりと首を巡らせる魔王の前に跪いているのは、毛むくじゃらの連中です。
 なにしろここは、狼の魔物──人狼族の集落。
 モフモフ達は一様に、三角形の耳をペタンと伏せ、足の間にしっぽを巻き込んで、ブルブルと震えています。
 ぷんすこマックスの魔王に、彼らはすっかり怯えて切っているのでした。


 魔王城の門で話しかけてきた、人狼族の長ルー。
 彼もまた、私の体が作られる際に血肉を紛れ込ませたのだといいます。
 しまっちゃいたいくらい可愛い派の夢魔オランジュ、食べちゃいたいくらい可愛い派の吸血鬼ジゼルに続き、生肉をたらふく食べさせてあげたいくらい可愛い派が登場しました。
 生肉は、ルーの大好物だそうです。
 それを譲ってでも食べさせたいというのは親心であり、百パーセント善意なのでしょう。
 そんな彼に連れられて、私は魔王城から少し離れた丘の上にある人狼の集落までやってきました。
 クリスと、もちろんヒヨコも一緒です。
 生肉を食べてやるつもりは微塵もありませんが、人狼だらけのモフモフランドには期待しかありませんでした。
 実際、人狼の子供はコロコロの子犬みたいな姿をしていたものですから、私は思わずにっこりしてしまいます。全力で抱っこしたい。
 ところがここで、思わぬ騒動が勃発します。

「ふぅん……人狼族の内紛、かしら?」
「ここに並べられているのは、ルーが族長なのが気に入らない者達ということですか」

 私の血を舐めてツヤツヤになったジゼルを肩に乗せ、同じく私の血で汚れたハンカチを懐にしまったノエルが、ギュスターヴの隣に並びました。
 魔王、そして元天使と吸血鬼を戦々恐々と見上げているのは、ドラゴン族と並んで戦闘力が高いらしい人狼族の中でも、殊更屈強そうな体格をした者達です。
 彼らは、私を連れて集落に戻ってきたルーに、いきなり襲いかかった連中でもありました。
 
< 211 / 249 >

この作品をシェア

pagetop