どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
魔界の門から地界までは、ひたすら長い長い階段を上らねばなりませんでした。
それはもう気の遠くなるような、果てしない長さです。
いずれ王太子に、そしてグリュン国王となるエミールの許嫁として、精神面はそれなりの強度があると自負しておりますが、正直体力面にはまったくもって自信がありません。
ところが不思議なことに、どれだけ階段を上ろうと私の足が音を上げることはありませんでした。
この身体がギュスターヴこと魔王の血肉でできているせい……いえ、おかげかもしれませんね。
ただし、階段は一筋の光すら差さない真っ暗闇であったため、私の覚束ない歩みを心配したヒヨコがずっと手を引いてくれました。
「あなたも、ここを通って魔界に来たのかしらね?」
魂の状態だった私は地界の地面をすり抜けて魔界に来れたのでしょうが、屍ごとのヒヨコなどはこの階段を下って門を潜ったのかもしれません。
それが、望むと望まざるとにかかわらず。
「エミールも……死んだら一緒に連れてこれるのでしょうか」
ぽつりとそう零した瞬間、私を導いていたヒヨコの手がビクリと震えました。
ただ彼は、それ以上の反応を寄越すことも、また歩みを止めることもありませんでしたが。
喋らない相手と二人きりなので、自然と私もそれきり口を閉ざしました。
光に再び出会えたのは、いったいどれほど経ってからのことでしょうか。
ここに来るまで何度も、誰かと、何かと、すれ違ったような気もしますが、なにしろ真っ暗闇でしたのでお互いの姿は見えません。
確かなのは、誰も彼もが下りてくるばかりで、私達を追い抜いて上っていくものはいなかった、ということだけでした。