どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
7話 ラスボスお父さん
「ここを通りたくば、私を倒してからにしろ」
決して大きくはない、いっそ穏やかにさえ聞こえる声がそう告げた。
低く艶やかで、相手を魅了するような美しい男の声だ。
けれど、誰もがその場にひれ伏してしまいたくなるような、絶対的強者の声だった。
アヴィスとヒヨコが骸骨門番を倒して門を潜ったことは、会員制交流場を介して瞬く間に魔界中に拡散された。
魔界には、地界に未練がある死人や地界で悪さをしたい魔物が大勢いる。
そんな連中が、魔界を抜け出すなら今だとばかりに、大挙して門の前に押し寄せたのだ。
ところが、いまだバラバラの骨を番犬達にしゃぶられまくっている門番に代わって、彼らの前に立ちはだかったのは魔王ギュスターヴだった。
巨大な黒塗りの門の前に悠然と佇む彼には、一切付け入る隙がない。
アヴィスでは床に引きずってしまったマントも、本来の主が羽織れば風を浴びて裾をはためかせていた。
「どうした。かかってこないのか」
予想だにしないラスボスの登場に、有象無象はどいつもこいつも固まってしまっている。
自分を倒して門を突破しようという気概のあるものは皆無だと判断したギュスターヴは、パンパンと両手を打ち鳴らした。
「はい、解散解散」
それを合図に、魔物も死人も弾かれたように動き出し、我先にと逃げていく。
きっとこの後、オフ会で散々愚痴るのだろう。
ギュスターヴは足下にじゃれ付いていた番犬の頭を撫でながら、ようやく骨を回収した門番に向き直った。