どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
魔界と地界とを繋ぐ、長い長い階段の果て。
ようやくたどり着いた扉を開くと、そこは大きな池のほとりでした。
その対岸に見える丘の上に、雪を纏って立っているのは……
「グリュン城だわ。私、本当に帰ってきたんですね……」
大陸の北に位置し、一年の半分以上が雪に覆われるグリュン王国。
にもかかわらず、この城の裏にある大きな池が凍らないのは、ここに生息する巨大な古代魚が常に水の中を泳ぎ回っているせいと言われています。
これまで幾人も犠牲になってきたため、決して近づいてはいけないと幼い頃から言い聞かされてきましたが、しかしこの池のほとりに魔界へ通じる扉があるなんて知りもしませんでした。
ところが、グリュン城を見上げるのをやめて後ろを振り返ったとたん、私は思わず隣に立つヒヨコと顔を見合わせます。
「扉が……」
今まさに潜ってきたはずの扉が、忽然と姿を消してしまっていたのです。
ともあれ、グリュン王国に帰ってきたからには目的を果たさねばなりません。
私は積もった雪をサクサクと踏みしめて丘を上り、ヒヨコを連れたまま堂々と正門から城を訪ねました。
……まあ、当然のことながら騒然となりましたわね。
「ア、アアア、アヴィス様っ!? ひえええ……おおお、おれ! 幽霊とかそういうの、だめなんですっ!! しかも、思いっきりヤバそうなの連れてるじゃないですかっ!!」
「安心してください。幽霊じゃありません。ちょっと死んで新しい身体になっただけです。そして、こちらの彼はただの可愛いヒヨコです」
「いや、全然分かんないっす! そんな、ちょっとお着替えしてきただけー、みたいに言われても! しかも、お連れ様の一体どこらへんがヒヨコなのか、説明できるものなら説明してくださいってんですよっ!!」
「ピヨピヨと、私の後ろをついてくるところですけど?」
ところで、何も考えずにワンピースとパンプスという軽装かつ薄着で来てしまいましたが、雪深い中だというのに寒く感じないから不思議です。
対して、もこもこの防寒具に身を包んだ若い門番は知った顔でした。
名前はトニー。私が生まれ育ったローゼオ侯爵家の家令の三男です。
トニーは、死んだはずの私が色違いになって現れたことと、どう見ても生きた人間ではないヒヨコの姿に驚きましたが、しかしすぐに涙ぐみ……
「おれ、おれ……お葬式でアヴィス様の棺を担いだんですよぅ。あんなに泣いたの、生まれて初めてなんですからぁ……」
「まあ……それはどうも、ごめんなさいね……」