どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜

「──アヴィスッ!!」

 そんな中、騎士団長を務める兄が人混みを掻き分けて駆け寄ってくるのが見えました。
 両親亡き後、親代わりになって育ててくれた兄夫婦に恩返しもできないままなのが悔やまれます。
 今はもう、痛みも苦しみもありません。
 あるのはただ、別れを惜しむ気持ちばかり。

(最期の時というのは、案外穏やかなものなのですね……)

 そう、どこか他人事のように感じたのは、意識が朦朧としていたせいかもしれません。
 ところが、私がそのまま穏やかな死を迎えることは叶いませんでした。

「エミール王子にはきっと悪魔が取り憑いているのですわ! この国に災いをもたらさぬよう、即刻城の外れの塔に幽閉すべきです!!」
 
 さながら演説者のように、大広間の真ん中で第二王妃が叫びます。
 これに真っ先に賛同したのは、公爵家の傍系出身の大臣でした。

「ええ! ええ! 全てはグリュン王国のためです!!」

 すると扇動された者達が、そうだそうだと声を上げ始めます。
 たちまち大広間は、エミールを糾弾する声で溢れ返りました。
 死出の旅路に向かおうとしていた私は、踵を返さざるを得ません。
 だって、天使のようなエミールを捕まえて、あろうことか悪魔憑き呼ばわり。
 それに、私の死が第二王妃の謀略であると気づいている者もきっといるはずなのに、誰も──エミールの父親である国王陛下さえ、声を上げないのです。

「くそっ……アヴィスにも、殿下にも、指一本触れさせるものか!!」

 兄が、エミールと私を背に庇って周囲を睨みつけますが、多勢に無勢。
 糾弾の声はそんな兄までも呑み込もうとしているように見えます。

(ひどい……どうして、こんなひどいことができるの……)

 私は、ふつふつと込み上げる怒りを押さえることができませんでした。
 きっと、死に顔はさぞ恐ろしいものになるでしょう。
 そんな中、さらに私を苛立たせることが起こりました。
 太い丸柱に支えられた天井高くから、豪奢なシャンデリアをすり抜けて天使が一匹現れたのです。
 こちらの気も知らないで、微笑みさえ浮かべて意気揚々と舞い降りてくるお迎え役に、私はいっそう怒りを募らせます。
 もう喋れる状態ではありませんでしたが、私はエミールと兄以外の全ての者に向かって、心の中でこう吐き捨てたのです。


 ──どいつもこいつも


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