どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜

12話 独り善がりの恐ろしい人


 ポタリ、ポタリ……

 インクが次々に滴っては、私が身につけた繭色のワンピースを汚していきました。

「うん、これでよし! これで、僕のアヴィスに戻った! よかったね、アヴィス!!」

 あまりの事態に呆然とする私をよそに、エミールは少しも悪びれることなく、無邪気なまでの笑みを浮かべて声を弾ませます。
 ところが、それも一瞬のことでした。

「──いや、まだだ」

 再び真顔に戻ったエミールが、額がぶつかり合うくらいにぐっと顔を近づけてきました。
 後退ろうとする私を、背中に回った腕が阻みます。
 そうして、瞳孔の開いた目でエミールが問うのです。

「アヴィス──その目の色は何?」
「……」

 私はこの時、生まれて初めて、エミールを恐ろしいと感じました。
 大人しくて引っ込み思案で泣き虫で、けれども優しくて純粋で虫一匹殺すこともできない、まさしく天使のような男の子だと思っていました。
 私が守ってあげなければ──ずっと、そう思ってきたのです。

「アヴィスの目は、緑色でしょう? そんな、血の色みたいな赤じゃなかった。だめだよ──それは、僕のアヴィスの色じゃない」
「エミール……」
「仕方がないね……うん、とっちゃおうか? 大丈夫。目玉が無くなったって、僕がずっと側にいるから平気さ」
「い、いや……!」

 今、私の目の前にいるのは、一体誰なのでしょうか。
 ギラギラとした目で睨み据え、私を否定するのは。
 私の目玉を抉ろうと、嬉々として手を伸ばしてくる、この恐ろしい人は──!
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