どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「んまあぁ、アヴィスちゃぁん。あなたの精気、魔王様と同じ味だわぁ」
「えっ、そんな……くどいってことですか? すごく心外です」
「うふふ、アヴィスちゃんはまだ味覚がお子ちゃまなのねぇ。これはくどいんじゃなくてぇ、コクがあるって言うのよぉ?」
「おい、ひとの精気をチーズみたいに評価するのはやめろ」

 ちなみに、私があっさりして美味しいと思ったノエルの精気は、オランジュに言わせれば熟成の足りない安物のワインだそうです。
 なんだか貧乏舌と言われたようで癪ですが、安物のワイン呼ばわりされたノエルの方がもっと業腹でしょう。笑顔なのが逆に怖いです。
 一方ギュスターヴは、私から引き剥がしたオランジュを突き放し、しっしっと追い払う仕草をしながら、それで? と続けました。
 
「私はな、私の血肉で健気に生きているアヴィスがとにかく可愛くてならんのだが、貴様らとしてはどうなんだ?」
「もちろん、可愛いですよ。我々も、血を分けた子なんて持つの、初めてですので」
「元天使様に同感ですぅ。相手が魔王様じゃなかったらぁ、力尽くで奪い取ってぇ、巣に持って帰ってぇ、ずうっっっと独り占めしておきたいくらい、可愛いですねぇ」

 自分の血肉でできた存在が可愛いって……それは結局、自己愛なんじゃないでしょうか。
 そう思いましたが、私は賢明にも口にはしませんでした。
 地界に戻ってあの豹変したエミールともう一度対峙する勇気はまだありませんし、かといって自分を殺した憎き天使の総本山である天界になんて絶対に行きたくありません。
 となると、今のところ私の居場所はこの魔界しかないわけで、それならば魔王やその側近達の後ろ盾はあるに越したことがないでしょう。
 そんな打算が働いてにっこりと愛想笑いを浮かべる私に、魔界人達の眼差しはたちまち生まれたての赤ちゃんを囲んでいるかのようなほのぼのとしたものに変わりました。
 どいつもこいつも、どうかしています。
 
「それでは、ギュスターヴも起きたことですし、出かけて参ります」

 私は顔に笑みを貼り付けたまま、そう断ってギュスターヴの腕の中から抜け出しました。
 この自称〝アヴィスのお父さん〟は、こうしてちゃんと筋を通しておけば、さほど私のすることに干渉してこないのです。
 ただし……

「携帯を忘れず持って行け。五時まで戻らねば迎えにいく」

 門限五時は健在です。
 なんだかんだ言いつつ、ギュスターヴはちゃんとお父さんっぽいです。
 けして、口にはしませんが。
< 65 / 249 >

この作品をシェア

pagetop