どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「焼き尽くせ、血に飢えた獣が無に還るまで」
凪いだ声に似合わぬ、残酷な命令が下されます。
それに従い煌々と燃え上がった炎は、床の絨毯を伝って扉にたどり着き、その向こうに押し寄せていた吸血鬼達をも捕らえました。
耳を擘くような断末魔が幾重にも重なり、吸血鬼屋敷を揺らします。
私はギュスターヴのマントの下に守られたまま、ただ身を固くすることしかできませんでした。
けれども、そんな時間も唐突に終わりを迎えます。
ギュスターヴが両手を一つパンと打ち鳴らしたとたんでした。
ジゼルも、吸血鬼達も、彼らを飲み込んだ炎も何もかもが、跡形もなく消え去ってしまったのです。
炎が舐めた絨毯と扉の焦げだけが、今し方の惨劇が現実であったと物語っていました。
「……」
私の戸惑いなどどこ吹く風で、静寂が戻ってきました。
しかし、それを真っ先に破るのもまたギュスターヴでした。
彼はパンパンと埃を払うみたいに両手を打ち鳴らすと、まずはヒヨコに向かって言います。
「貴様はなかなかに筋がいい。だが、生粋の魔物を相手にするには明らかに力不足だ」
「……」
「その身が滅び去る最後の瞬間までアヴィスに仕える気があるのならば、師となる者を紹介してやってもいいが……どうする?」
「……っ、……っ!」
ギュスターヴの言葉に、ヒヨコが一瞬の逡巡もなくこくこくと頷きます。
それに満足そうに頷き返すギュスターヴを、私はマントの下からそろりと顔を出して見上げました。
それに気づいているのかどうかは分かりませんが、ところで、と彼がこちらを振り返らないまま続けます。
「アヴィス、ネット上で知り合ったやつと安易に会ってはならんと知らなかったのか」
「……ぐす……知りません……だって、まだ始めたばかりですもの」
私が涙声で答えたとたんでした。
慌てて振り返ったギュスターヴが、ぎょっとした顔をします。
彼はすぐさま駆け寄ってきて、床に転がっていた私を自身のマントごと助け起こしてくれました。