どいつもこいつも愚か者。私が一番愚か者! 〜第二の人生は魔王のスネをかじって面白おかしく生きることにしました〜
「……アヴィス、眠ったのか?」
「眠ってませんけど」

 私がすかさず答えますと、彼はがっかりしたようなため息を吐きます。

「お前はどうして眠らないのだろうな……」
「さあ? でも、別に眠くありませんし、眠らなくても動けますし、問題ないと思いますけど」
「問題ないわけがあるものか。睡眠は大事だぞ。現に、私は毎日十二時間は寝る」
「知ってます」

 十二時間はさすがに寝すぎだと思いますが、それで魔界がうまく回っているのならば、新参者の私がとやかく言うことではありません。
 そうこうしているうちに、ギュスターヴが洞窟の硬い岩盤をブーツの底でコツンと蹴りました。
 とたんに眩い光に包まれて、私はぎゅっと目を瞑ります。
 次に瞼を開いた時には、私達はすでに魔王城の門前へと戻ってきておりました。
 門番のガーゴイルがぎょっとした顔をしておりますが、ギュスターヴは気にも留めず、私を抱いたまま門を潜ります。
 
「私はこの後、城の地下に用がある。地下ではお前の気配も察知しにくいため、何かあってもすぐには駆けつけられないかもしれない」
「はあ」
「そういうわけだから、今日はもう城の中で大人しくしていなさい」
「お言葉ですが、ギュスターヴ。私はいつでも大人しくしているんですよ? 周りが勝手に騒がしくするだけです」

 私の反論に、分かった分かったとおざなりな返事をした魔王はきっと知らないのでしょう。
 彼のさっきの忠告は、世間では〝フラグを立てる〟と言われることを。
 そして、私も知りませんでした。
 洞窟の底に一滴垂れた私の血に、熱い視線を注ぐものがいたことを──
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