この度先輩のご飯係になりました~私と先輩の幸せレシピ~

「…?美桜?」


「…かない…で」


「え?」


「いおり先輩…行かないで…ください…」


 いおり先輩は驚いたように私の顔を見て、すぐこちらに戻ってきてくれた。


「なにかゼリーでも持ってこようかと思ったんだけど、またあとにするね」


 いおり先輩は私の枕元に腰をおろした。


 優しく手を握ってくれるいおり先輩に、私はお母さんを思い出す。


「よく…」


「うん?」


「小さい頃、私、よく熱を出すことがあったんです…」


 私の小さなつぶやきを聞き逃すまいと、いおり先輩はこちらに耳をかたむけてくれる。


「うん、そう言っていたね。俺にはじめてご飯を作ってくれたときに」


 いおり先輩、憶えていてくれたんだ…。


「私、身体が弱くて、いつも熱ばかり出していて…お母さんに心配ばかりかけちゃった…」


 お母さんは私が熱を出すたびに、いつもかきたまうどんを作ってくれた。


 それがすごく優しくておいしくて、早くよくなる気がした。


「小さい頃はご飯が好きじゃなかったんです…」


 いおり先輩は目を丸くしたけれど、なにも言わずに聞いてくれている。


「幼稚園の給食も、小学校の給食も苦手だった…」


 当時は好き嫌いが多かった。嫌いな野菜も料理もたくさんあった。


 その中でも、ご飯の時間を嫌いになった決定的な事件があった。

< 126 / 139 >

この作品をシェア

pagetop