人生終了のお知らせが届きました
書類から顔を上げた岩井に、孝弘は事務的に話し掛けた。

「岩井社長、隣の部屋に居る債務者の詳細を教えて頂けますか?」

 普段から表情を崩さずに淡々と仕事をこなす孝弘の私情を交えた言葉に、岩井は興味深そうに片眉をあげた。
 
「へぇ、先生も人の子だったんだねぇ。構いませんよ詳細をお見せしましょう」

確認した『金銭貸借契約書』には、内藤真帆の連帯保証人として、高橋紗理奈の名前が記載されていた。これだと、債務不履行で取り立てされても仕方がない。

「連帯保証人か……」

そうつぶやくと、孝弘はメガネのブリッジに手を掛けた。
 連帯保証人の怖さやリスクは嫌と言うほど知っている。
 それは、孝弘が弁護士だからと言うだけではなく、その昔、父親が友人の連帯保証人になり、辛酸をなめさせられた過去があるからだ。
もしも、父親が友人に裏切られていなければ……。
 否、そもそも保証人などならなければ、家族がバラバラになる事も苦労する事も無かったはずだと、何度思った事だろう。
 その時の経験から、孝弘が将来を見据えた時、弁護士という職業を選択させる原動力になったのは皮肉な結果だ。

「まあ、質の悪い友人の保証人にさせられて、気の毒とは思いましてもウチも商売ですからねぇ。取り立てをしない訳には行かないんですよ」

岩井は両手を広げ、言い訳のように商売の正当性を語る。
それを聞いて孝弘は、悪だくみを思い付いたように口角を上げ薄く笑った。

「……そうですね。保証人の欄に判をついてしまった以上、返済義務が生じてしまうのは仕方のない事です。しかし、借りた金を返さないヤツが一番悪いんです。岩井社長、決して損はさせませんので、私に協力して頂けませんか?」


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