人生終了のお知らせが届きました
そして、孝弘も何でもない素振りを装いつつも、内心は戸惑っていた。
10年前と同じ感覚で紗理奈を抱き留めたが、細く小さかった少女は、丸みを帯び柔らかな女性の体へと変化していたのだ。おまけに黒髪から漂う甘い香りに鼻腔がくすぐられる。
「おい、いつまで抱きついているんだ」
「あっ、ご、ごめんなさい」
「しょうがないな……」
妹分に対して湧き上がった自分の邪な感情に苦笑いを浮かべながら、孝弘は紗理奈を支えていた腕を緩める。
孝弘から離れた紗理奈は、恥ずかしそうにチラリと様子を窺った。
視線が絡んだ瞬間、抱き着いた時の感触が、紗理奈の頭の中でフラッシュバックする。とたんに、火が付いたように顔が熱くなり、慌ててうつむいた。
顔だけでなく耳までも真っ赤になっている。
「あの……。タカ兄、本当になんて言っていいのか……。助けてくれてありがとう」
そうつぶやく紗理奈が、孝弘の瞳には可愛らしく映る。
「悪徳弁護士の使い道なんて、こんな時ぐらいしかないだろう」
すると、ふたりの様子を生温かい目で見守っていた岩井が、アハハっと大きな笑い声を立てる。
いつも無表情で通していた孝弘の人間らしい一面を見て、岩井は上機嫌だ。
「氷室先生、先ほど頼まれた件、大船に乗ったつもりで居ていいですよ」
「勝手言ってすまない」
「いいんですよ。氷室先生には日頃からお世話になっているんで。それに、こちらに損はありませんから」