人生終了のお知らせが届きました
「どうだ? 着れたか?」

 今まで着た事のないデザインのワンピース。本当は、すごく気に入っていた。でも、手の届く金額じゃない。
 紗理奈は、あきらめるためのセリフを吐く。
 
「うん、でも、私には少し大人っぽすぎるかも……」

「ドア、開けるぞ」

 試着室のドアを開いた孝弘の目に飛び込んで来たのは、美しく変貌を遂げた紗理奈の姿。
 昔、児童養護施設で出会った痩せた小さな女の子は、いつの間にか大人の女性へ成長していた。
 その姿は、蛹から羽化したばかりの蝶のように瑞々しい美しさを讃え、見る者を魅了する。

 孝弘はスッと目を細め、つぶやく。
 
「綺麗だ。良く似合ってる」

「そ、そうかな……」

「よし! このまま着て行こう」

「えっ!? ま、待って……」

「ああ、悪い。靴も揃えないとな」

孝弘は、店員にワンピースに似合う靴とバッグを頼むと同時に、カードを店員さんに預け、支払いを済ませてしまう。

「タカ兄……私、こんなに高い服の代金なんて、とてもじゃないけど返せないよ」

 高価な物を買ってもらって当たり前と言う女性が多い中、控えめな紗理奈の様子は、男の庇護欲を掻き立てられる。
孝弘はフッと、優しく微笑んだ。

「会えなかった時の誕生日プレゼントだと思って、素直にもらっておけ」

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