人生終了のお知らせが届きました
 車は横浜駅西口のロータリーを過ぎ、左折する。五番街に続く細い一方通行の裏通りを過ぎる。
 淀んだ川が流れるこの地区は、大雨が降ると浸水しやすく、路面店でも階段を数段上る作りで、どことなく()えたドブの匂いが漂っている。家電量販店の手前に掛かる橋は、別名ナンパ橋とも言われ、夜となるとパパ活女子や店の客引きが現れる。辺りは派手なネオンが煌めく歓楽街だ。
 川沿いにある築何十年になるのか不明な、古い雑居ビルの前に車は停まった。
 小さな階段を上がった1階には、キャッシュディスペンサーの機械が2台設置され、その横にある小さなエレベーターに、紗理奈は押し込まれた。
 ガコンと鈍い音を立てて、箱が浮上する。エレベーターの中は黒スーツのお兄サン達の圧迫感で、窮屈な上に息苦しく感じられた。
 そして、この先の事を考えると胃がキリキリと痛くなってくる。
死刑判決を待つ囚人は、きっとこんな心境なのだろうかと、つい物騒な事を考えてしまう。

 紗理奈は、親が居ないという不遇の人生を送っていても、誠実に過ごして来たはずだった。
 高校卒業と共に児童養護施設から出て、古い安アパートで一人暮らしを始めた。高校の斡旋で就職した制服工場。そこの事務員の仕事は雑用も多く、特に2月3月の繫忙期は残業続きで、ブラック気味でお給料は安い。
 夏のボーナスで、お値段以上を歌うお店で、カウチソファーを買うのを目標に頑張っていた。
 小さな幸せを積み重ね、ささやかな暮らしを楽しんでいた。
 それが、どうして、借金取りのお兄サンに挟まれているのか……。

 チンッと、音を立ててエレベーターが止まり、扉が開く。
 目の前には、『スマイルローン』と書かれたガラスの自動ドア。
 背中を押された紗理奈は、あきらめに似た気持ちで、店内へ足を進めた。
 
 カウンターの向こう側に居る受付の女性から憐れみの目で見られ、その奥の男性はニヤニヤといやらしく口元を緩め、舐めるような視線を送られる。
 惨めな気持ちで歩くと、重厚な扉が開けられた。
 10畳ほどの長細い部屋の真ん中には黒革の応接セット、天井の近くに、立派な神棚が祀られていた。
 そして、更に奥に部屋があるのか、「社長室」書かれたドアがある。

(これって、絶対にヤバい)

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