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波乱の幕開け

 会社主宰の親睦会は、横浜駅西口の改札を出てすぐの所にある居酒屋での開催。営業職と事務職の総勢12人の参加となった。
 お酒も進んだところで、紗理奈の横に佐竹満が腰をおろした。

「紗理奈、今日はなんだか大人っぽいな」 
 
「そうかな?」

 それもそのはず、今日、紗理奈が着ているのは、孝弘とみなとみらいに行った時に買ってもらった服。
 あの日、孝弘はワンピースだけでなく、いろいろま服をプレゼントしてくれたのだ。
 紗理奈自身も綺麗になれる系アプリで、メイクやファッションの研究をするようになり、その努力の結果が徐々に現れ始めている。
 
「服の趣味が変わった?」

「そうよねー。紗理奈ちゃん、急に色気づいちゃって、何かあったの? おばちゃんに話してごらんなさい」

 と、話しに割って入って来たのは、ベテラン事務員の斎藤多恵子だ。勤続30年になろうとしている斎藤はみんなのお母さん的存在で、世話焼きでもある。

「なにもないですよ。今までが美容に興味が無さ過ぎただけで、ちょっとおしゃれに目覚めただけです」

「あら、女が綺麗になろうとするなんて、恋をした時と相場が決まっているじゃない。相手は誰なの?」 

 そう、世話を焼きすぎるのが玉に瑕だ。
 斎藤からの追求に焦った紗理奈は、胸の前で小さく手を振った。

「私なんて、誰も相手にしませんよ」

実際、孝弘には妹としてしか扱ってもらえず、ただ見つめるのが精一杯。

「そんなこと無いって、紗理奈ちゃんはまだ磨かれていない原石なの。紗理奈ちゃんの魅力に気付かないような朴念仁なら、こっちから願い下げにしてやんなさい。代わりに私が良い男を紹介してあげるわ。佐竹くんなんて、どお?」

 と、満を勧めて来る。
 これに焦ったのは満の方だ。徐々に距離を詰めていた所に飛んだフライングが入ったのだ。

「斎藤さん。ちょっ、ちょっと待ってください」

「あの、本当に大丈夫ですから!」

 紗理奈も斎藤の暴走を止めるべく必死だ。
 
「斎藤さん。若い人にはそれぞれのペースがあるだろし、温かい目で見守ってあげましょうよ」
 
 助け船をだしてくれたのは、営業課の山崎課長。
 絡み酒が始まった斎藤から、山崎課長は後ろ手で逃げるように合図をしてくれている。

「すみません。ちょっと、化粧室に……」

 そう言って、紗理奈が立ち上がると、満もわざとらしくポケットを探り出す。

「あっ、取引先から電話だ。なんだろう」
 
 山崎課長に感謝しつつ、居酒屋の外に出たふたりは、酔い覚ましに夜の街へと歩きだした。
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