はっきよい! ショコラちゃん~la mignonne petite fille~
勝った千代古齢糖は蹲踞姿勢になり、きちんと右手で手刀を切って行司から勝ち名乗りを受けた。
「さすが千代古齢糖ちゃんじゃ。うおおおおおおおおおおおっ!」
五郎次爺ちゃんは扇子を激しく振り回しながら熱く叫び回る。
【ただいまの、決まり手は、とったり、とったりで、千代古齢糖風の勝ち】
場内アナウンスで決まり手も発表された。
「千代古齢糖さん、瞬発力凄いわね。百メートル十二秒台前半で走れただけはあるわ。前回よりもずっと動きが良くなってるわね」
「あっという間だったね。勝ち名乗り受けてる時の表情も、凛々しくてすごく格好良かったよ」
利乃と秋穂はとても感心する。
「俺、千代古齢糖ちゃんに一生相撲で勝てる気がしない」
梶之助は恐怖心も芽生えた。
千代古齢糖によると、この大会は思い出作りの遊び半分で出場している人が大半らしく、それなりに稽古して来た人にとってはわりと勝ち進めるものらしい。一回戦で不運にも優勝候補と当たってしまったらそれまでだが。
四股名も『信楽の狸おばさん』、『たつのんのんびより』『有馬娘プリティーダービー』『養父ライバー』『京大目指して七浪中』『能勢界食堂』などなど、けっこうふざけて付けている人も多かった。さらにアニメキャラのコスプレ姿で土俵に上がる者も複数名。
また、この大会では初心者にも気軽に参加してもらえるよう、現役または引退から五年以内のプロ格闘家の出場は禁止にしているとのこと。
「とりゃぁっ!」
「おう! あのアクロバット技出たわね」
「ショコラちゃん、すごいっ!」
「千代古齢糖ちゅわあああああん、この技見られて僕は大満足じゃぞぃっ! 今度僕にもかけてシルブプレ」
「この技、俺、千代古齢糖ちゃんにしょっちゅうかけられたけど大会で出したのは初めてだな」
二回戦、千代古齢糖は豪快な〝居反り〟で勝利。相手力士の懐に素早く潜り込み、休まず相手力士の膝を両手で抱えて押し上げ、後ろに反って倒したのだ。
利乃達や他の観客からも当然のように大歓声大拍手が起きた。
千代古齢糖は凛々しい表情で勝ち名乗りを受けたものの、土俵から下りると嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべた。
三回戦の相手にはマワシを取らせる隙を与えず、突っ張りを目にも止まらぬ速さで断続的に繰り出した。一七〇センチ近くはあった相手力士、勢いに負けて尻餅をつく。
勝負は五秒ほど。決まり手は、〝突き倒し〟だ。
千代古齢糖は瞬発力のみならず、突き押しの圧力もけっこうあったのだ。
これにてDブロックの頂点に立ち準々決勝進出。ベスト8に残った。
準々決勝。千代古齢糖は〝首捻り〟というこれまた豪快な決まり手であっさり勝った。準決勝へとコマを進める。
準決勝。相手力士、大阪府門真市出身の『家電おばちゃん』は体格がかなりでかかった。背丈だけでなく横幅も。
「まるで子どもと大人だ。あの家電おばちゃんっていう四股名の人、体重百キロは超えてそうだな」
「梶之助さん、女性の体重を推測するのは失礼ですよ。でも、確かにそんな感じね」
「まともにぶつかったらショコラちゃん、一気に土俵の外まで突き飛ばされそうだよ。どう攻めるのかなぁ?」
三人は心配そうに見守る。
「小錦‐舞の海戦を思い出すわい」
五郎次爺ちゃんはこの取組をとても楽しみにしている様子だった。
塩撒きと仕切りを五回繰り返し、いよいよ制限時間いっぱい。
「時間です。待ったなし。手を下ろして。はっけよぉい、のこった!」
軍配返されてからわずか二秒後、家電おばちゃんはうつ伏せにばったり倒れていた。
「うおおおおおっ、さすが千代古齢糖ちゃんじゃ。上手いっ!」
五郎次爺ちゃん、扇子をぶんぶん振り回し大興奮。
「千代古齢糖さん、ちゃんと考えてたのね」
「相手の動き、見切ってたね。すごいよショコラちゃん」
秋穂と利乃はパチパチ拍手を送り、褒め称える。
「そう来たか。それにしても、なんという強さだよ。前回はけっこう危なっかしい取組が多かったけど、今年は全部圧勝じゃないか」
梶之助はかなり驚いていた。
千代古齢糖は立ち合った瞬間、家電おばちゃんが両マワシを掴みに来ようとした所をサッと横に身をかわし、家電おばちゃんの大根のように太い足を蹴り上げバランスを崩させ、さらに手で肩をポンッと叩いて前のめりに転倒させたのだ。
【ただいまの決まり手は、蹴手繰り、蹴手繰りで、千代古齢糖風の勝ち】
これにて準優勝確定。決勝戦つまりは優勝決定戦進出。
千代古齢糖は勝ち名乗りを受け土俵から下りると、梶之助達三人のいる席へ。準決勝もう一組の取組をいっしょに観戦する。
「あ~あ、やっぱりあの人が勝っちゃったかぁ。私、次は絶対勝てないよ。前回は全く歯が立たなくて、一瞬で肩越しに上手取られて波離間投げで負かされた相手だよ。怖いよぉ」
結果を知った瞬間、千代古齢糖は困惑顔で嘆きの声を上げる。決勝戦は、前回と同じ対戦相手になったのだ。
「俺にもその気持ちは良ぉく分かる」
梶之助は、少し怯えていた千代古齢糖に深く同情出来た。
「ショコラちゃん、頑張って。ショコラちゃんは前回よりもずっと強くなってるから絶対大丈夫だよ」
「千代古齢糖さん、あんな豪快な技繰り出せるんだから、きっと勝てるわっ!」
秋穂と利乃は優しく励ます。
「千代古齢糖ちゃん、メンタルを強く持つのじゃ。そうすれば絶対勝てるぞっ!」
五郎次爺ちゃんも駆け寄ってくる。
「みんな応援ありがとう。対戦相手、前回はあの大柄な家電おばちゃんを三回戦で〝つかみ投げ〟で破ってるような人だし、きっと無理だろうけど私、精一杯頑張ってくるよ。思いっきりぶちかましてくる!」
こぶしをぎゅっと握り締め強く宣言するも、千代古齢糖はぎこちない足どりで土俵へと向かう。
「ひがあああああしいいいいい、まやさんんんぞくううううう。にいいいいいしいいいいい、しょこらあああかあああぜえええええ」
呼出の合図。両者、土俵の上へ。
観客から割れんばかりの拍手喝采が起こる。
【東方、摩耶山賊、兵庫県神戸市灘区出身、三五歳。優勝回数十一回を誇る超実力派。今回八連覇なるかっ。西方、千代古齢糖風、兵庫県西宮市出身、十五歳。前回決勝の雪辱なるかっ。今大会最後の大一番です!】
場内アナウンスもこれまでの取組以上に気合が入っていた。
千代古齢糖の話によれば、摩耶山賊はメキシコ生まれの元女子アマレスラーとのこと。
ちなみにこのお方の本名は、マヤ・モンタネスというらしい。肩の辺りまで伸びた黒髪と青い瞳が特徴的だった。背丈は一七〇を越えているように見え、横幅も家電おばちゃんに負けないくらい広かった。ただ、お顔は体型のわりに痩せていて、けっこう可愛らしかった。
「大鵬‐柏戸の千秋楽相星決戦が偲ばれるわい」
五郎次爺ちゃんは懐かしさに浸っていた。
仕切りの際、両者激しい睨み合いが続く。
「女同士の争いって、すげえ怖いな」
その迫力に、梶之助は少し仰け反ってしまう。
「ショコラちゃぁーん、ファイト!」
「頑張って下さぁい!」
秋穂と利乃は熱く叫ぶ。
六度目の塩撒きと仕切りで、制限時間いっぱいとなった。
「さすが千代古齢糖ちゃんじゃ。うおおおおおおおおおおおっ!」
五郎次爺ちゃんは扇子を激しく振り回しながら熱く叫び回る。
【ただいまの、決まり手は、とったり、とったりで、千代古齢糖風の勝ち】
場内アナウンスで決まり手も発表された。
「千代古齢糖さん、瞬発力凄いわね。百メートル十二秒台前半で走れただけはあるわ。前回よりもずっと動きが良くなってるわね」
「あっという間だったね。勝ち名乗り受けてる時の表情も、凛々しくてすごく格好良かったよ」
利乃と秋穂はとても感心する。
「俺、千代古齢糖ちゃんに一生相撲で勝てる気がしない」
梶之助は恐怖心も芽生えた。
千代古齢糖によると、この大会は思い出作りの遊び半分で出場している人が大半らしく、それなりに稽古して来た人にとってはわりと勝ち進めるものらしい。一回戦で不運にも優勝候補と当たってしまったらそれまでだが。
四股名も『信楽の狸おばさん』、『たつのんのんびより』『有馬娘プリティーダービー』『養父ライバー』『京大目指して七浪中』『能勢界食堂』などなど、けっこうふざけて付けている人も多かった。さらにアニメキャラのコスプレ姿で土俵に上がる者も複数名。
また、この大会では初心者にも気軽に参加してもらえるよう、現役または引退から五年以内のプロ格闘家の出場は禁止にしているとのこと。
「とりゃぁっ!」
「おう! あのアクロバット技出たわね」
「ショコラちゃん、すごいっ!」
「千代古齢糖ちゅわあああああん、この技見られて僕は大満足じゃぞぃっ! 今度僕にもかけてシルブプレ」
「この技、俺、千代古齢糖ちゃんにしょっちゅうかけられたけど大会で出したのは初めてだな」
二回戦、千代古齢糖は豪快な〝居反り〟で勝利。相手力士の懐に素早く潜り込み、休まず相手力士の膝を両手で抱えて押し上げ、後ろに反って倒したのだ。
利乃達や他の観客からも当然のように大歓声大拍手が起きた。
千代古齢糖は凛々しい表情で勝ち名乗りを受けたものの、土俵から下りると嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべた。
三回戦の相手にはマワシを取らせる隙を与えず、突っ張りを目にも止まらぬ速さで断続的に繰り出した。一七〇センチ近くはあった相手力士、勢いに負けて尻餅をつく。
勝負は五秒ほど。決まり手は、〝突き倒し〟だ。
千代古齢糖は瞬発力のみならず、突き押しの圧力もけっこうあったのだ。
これにてDブロックの頂点に立ち準々決勝進出。ベスト8に残った。
準々決勝。千代古齢糖は〝首捻り〟というこれまた豪快な決まり手であっさり勝った。準決勝へとコマを進める。
準決勝。相手力士、大阪府門真市出身の『家電おばちゃん』は体格がかなりでかかった。背丈だけでなく横幅も。
「まるで子どもと大人だ。あの家電おばちゃんっていう四股名の人、体重百キロは超えてそうだな」
「梶之助さん、女性の体重を推測するのは失礼ですよ。でも、確かにそんな感じね」
「まともにぶつかったらショコラちゃん、一気に土俵の外まで突き飛ばされそうだよ。どう攻めるのかなぁ?」
三人は心配そうに見守る。
「小錦‐舞の海戦を思い出すわい」
五郎次爺ちゃんはこの取組をとても楽しみにしている様子だった。
塩撒きと仕切りを五回繰り返し、いよいよ制限時間いっぱい。
「時間です。待ったなし。手を下ろして。はっけよぉい、のこった!」
軍配返されてからわずか二秒後、家電おばちゃんはうつ伏せにばったり倒れていた。
「うおおおおおっ、さすが千代古齢糖ちゃんじゃ。上手いっ!」
五郎次爺ちゃん、扇子をぶんぶん振り回し大興奮。
「千代古齢糖さん、ちゃんと考えてたのね」
「相手の動き、見切ってたね。すごいよショコラちゃん」
秋穂と利乃はパチパチ拍手を送り、褒め称える。
「そう来たか。それにしても、なんという強さだよ。前回はけっこう危なっかしい取組が多かったけど、今年は全部圧勝じゃないか」
梶之助はかなり驚いていた。
千代古齢糖は立ち合った瞬間、家電おばちゃんが両マワシを掴みに来ようとした所をサッと横に身をかわし、家電おばちゃんの大根のように太い足を蹴り上げバランスを崩させ、さらに手で肩をポンッと叩いて前のめりに転倒させたのだ。
【ただいまの決まり手は、蹴手繰り、蹴手繰りで、千代古齢糖風の勝ち】
これにて準優勝確定。決勝戦つまりは優勝決定戦進出。
千代古齢糖は勝ち名乗りを受け土俵から下りると、梶之助達三人のいる席へ。準決勝もう一組の取組をいっしょに観戦する。
「あ~あ、やっぱりあの人が勝っちゃったかぁ。私、次は絶対勝てないよ。前回は全く歯が立たなくて、一瞬で肩越しに上手取られて波離間投げで負かされた相手だよ。怖いよぉ」
結果を知った瞬間、千代古齢糖は困惑顔で嘆きの声を上げる。決勝戦は、前回と同じ対戦相手になったのだ。
「俺にもその気持ちは良ぉく分かる」
梶之助は、少し怯えていた千代古齢糖に深く同情出来た。
「ショコラちゃん、頑張って。ショコラちゃんは前回よりもずっと強くなってるから絶対大丈夫だよ」
「千代古齢糖さん、あんな豪快な技繰り出せるんだから、きっと勝てるわっ!」
秋穂と利乃は優しく励ます。
「千代古齢糖ちゃん、メンタルを強く持つのじゃ。そうすれば絶対勝てるぞっ!」
五郎次爺ちゃんも駆け寄ってくる。
「みんな応援ありがとう。対戦相手、前回はあの大柄な家電おばちゃんを三回戦で〝つかみ投げ〟で破ってるような人だし、きっと無理だろうけど私、精一杯頑張ってくるよ。思いっきりぶちかましてくる!」
こぶしをぎゅっと握り締め強く宣言するも、千代古齢糖はぎこちない足どりで土俵へと向かう。
「ひがあああああしいいいいい、まやさんんんぞくううううう。にいいいいいしいいいいい、しょこらあああかあああぜえええええ」
呼出の合図。両者、土俵の上へ。
観客から割れんばかりの拍手喝采が起こる。
【東方、摩耶山賊、兵庫県神戸市灘区出身、三五歳。優勝回数十一回を誇る超実力派。今回八連覇なるかっ。西方、千代古齢糖風、兵庫県西宮市出身、十五歳。前回決勝の雪辱なるかっ。今大会最後の大一番です!】
場内アナウンスもこれまでの取組以上に気合が入っていた。
千代古齢糖の話によれば、摩耶山賊はメキシコ生まれの元女子アマレスラーとのこと。
ちなみにこのお方の本名は、マヤ・モンタネスというらしい。肩の辺りまで伸びた黒髪と青い瞳が特徴的だった。背丈は一七〇を越えているように見え、横幅も家電おばちゃんに負けないくらい広かった。ただ、お顔は体型のわりに痩せていて、けっこう可愛らしかった。
「大鵬‐柏戸の千秋楽相星決戦が偲ばれるわい」
五郎次爺ちゃんは懐かしさに浸っていた。
仕切りの際、両者激しい睨み合いが続く。
「女同士の争いって、すげえ怖いな」
その迫力に、梶之助は少し仰け反ってしまう。
「ショコラちゃぁーん、ファイト!」
「頑張って下さぁい!」
秋穂と利乃は熱く叫ぶ。
六度目の塩撒きと仕切りで、制限時間いっぱいとなった。