はっきよい! ショコラちゃん~la mignonne petite fille~
 五郎次爺ちゃんにきりっとした表情で言われ、梶之助はたじろぐ。
「ぜひ、子孫作りにも励んで来い」
 にやけ顔で、肩をポンポンッと叩かれた。
「……」
 梶之助は呆れ顔。彼は自室に向かうと、さっそく千代古齢糖と光洋と秀平にラインでこのことを伝える。
『夏場所を見に行くのっ!! 行く、行く。私も絶対行くぅーっ。生で見る機会、大阪場所しかないからね』
 千代古齢糖は快く誘いに乗ってくれた。
『もちろん行くぜ。アキバ巡りしたいからな』
 光洋も同じく。
『東京か。ボクも行くよん』
 秀平も参加する気満々だった。彼への電話を切ってから五分ほど後、梶之助のスマホに千代古齢糖から電話がかかってくる。
『利乃ちゃんと秋穂ちゃんも東京旅行に参加するって』
「それじゃ、六人で行くことになるのか」
 他にもいろいろ連絡を受け、
「――というわけで五郎次爺ちゃん。俺含めて六人で東京行くことになったんだ」
 電話を切ったあと梶之助は、すぐさま茶の間にいる五郎次爺ちゃんに報告しに行く。
「そうか。そりゃぁ良い! また権太左衛門の預金通帳から勝手に三〇万ほど」
「いやっ、参加費はあの子達が全額負担するからいいって」
「まあまあ。良いではないか」
 すると五郎次爺ちゃんは気前よく、追加メンバー分のホテルの予約もすぐにネットでしてくれたのであった。

       ※

 同じ週、金曜日の帰りのホームルームにて、
「いよいよ高校生活最初の中間テスト、一週間前になりました。この土日は皆さんしっかりテスト勉強に励まなきゃダメよ。入学式の日にも言ったけど、高校は義務教育じゃないから、成績があまりに悪いと進級出来なくて留年しちゃうからね。三〇点未満を取ったら赤点、追試よ。あと、うちの高校では皆さんが中学の時みたいに教科書や問題集の丸暗記、一夜漬けで通用するような簡単な問題はどの教科もほとんど出ないからね。大学入試レベルの問題もけっこう出ますよ」
 担任から中間テストの日程範囲表が配布され、こう告げられた。部活動も今日から禁止だ。
「こんな大事な時に東京なんかに遊びに行って、大丈夫かなぁ? 勉強道具も持っていかないと」
 解散後、後ろめたい気分の梶之助に対し、
「梶之助殿、テストは来週の金曜からではないかぁ。まだまだ時間はたっぷりあるぜ」
「梶之助くん、この土日はめいっぱい遊んで、来週から本気で頑張ればいいじゃない」
 光洋と千代古齢糖は遊ぶ気満々だった。
 このあと、千代古齢糖が代表して生徒指導部長の先生に旅行届を提出。
 帰りに梶之助が代表して学校最寄り駅みどりの窓口で六人分の、東京駅までの在来線と新幹線の往復乗車券(学割適用)を購入し、参加者の五人に渡したのであった。
  
      ☆

 翌日、五月一〇日、土曜日。
 朝七時頃、鬼柳宅玄関先。
「私服姿の千代古齢糖さんも、とっても可愛らしいわね」
「ありがとうございます、寿美おば様」
 千代古齢糖は青色のサロペットを身に着けて、梶之助を呼びに来ていた。
「梶之助、お泊りデート、思いっきり楽しんで来なさいよ」
「母さん、デートじゃないって。光洋や秀平、南中さんと安福さんもいるし、修学旅行の班行動のようなものだって」
 梶之助は照れくさそうに否定する。彼はデニムのジーパンに、グレーと白の縞柄セーターという格好だった。
「じゃあ行こう、梶之助くん」
「うっ、うん。今日は東京の方も天気いいみたいだね」
 それほど派手な服装ではないそんな二人は家を出て、集合場所に指定した最寄りのJR西宮駅前へと向かって歩いていく。
 今日は五郎次爺ちゃん、まだ寝ていたため千代古齢糖の前に姿を現さなかった。

「おはよー、ショコラちゃん、カジノスケくん」
「おはよう千代古齢糖さんに梶之助さん。今日は半袖でもじゅうぶんなくらい暑いですね。東京都心は三〇℃近くまで上がるみたいですよ」
 梶之助と千代古齢糖が集合場所に辿り着いた時には、すでに秋穂と利乃が待っていた。
「おはよう」
 梶之助は少し緊張気味に、
「おはよう、秋穂ちゃんも利乃ちゃんも、かわいい服だね」
 千代古齢糖は爽やかな表情で挨拶を返す。
 秋穂は鶯色の夏用ワンピース、利乃は山吹色のサマーニットにデニムのホットパンツというスタイルだった。
「光洋と秀平は、まだ来てないのか。まだ約束の時間まで五分以上あるけど」
 駅構内で、梶之助が周りをきょろきょろ見渡していたその時、彼のスマホ着信音が鳴った。
「光洋か。迷ったのかな?」
 番号を見るとこう呟いて、通話アイコンをタップする。
『梶之助殿、今どこおるん? おいら、新大阪駅におるねんけど』
『ボクも同じだよーん』
 秀平の声も聞こえた。
「おいおい、昨日の晩、集合場所はJR西宮駅って伝えただろ」
 梶之助はちょっぴり呆れる。
『知ってたぜ。でもさぁ、おいら、その、リアル女子となるべくいっしょに動きたくないんだよね』
『ボクもだよん。あの三名方は三次元としては性格がすこぶる良いとは思うのですが、近くにいられたらボク、異様に緊張してしまいますしぃ。では鬼柳君。後でおみやげ街道の所で落ち合いましょう』
「おーい、光洋、秀平、旅行先で勝手な行動はとるなよ」
 梶之助は呆れ顔で忠告しておき、電話を切った。
「あっ、あのさ、光洋と秀平、もう新大阪駅にいるってさ」
 そしてすぐに女の子三人に伝える。
「光ちゃんと秀ちゃん、先に行くなんて、東京旅行にかなり気合入ってるみたいだね」
 千代古齢糖は笑顔で突っ込んだ。
「わたし達を避けてるようで、心配ね」
「コウちゃんとシュウちゃん、東京で迷子にならないかワタシも心配だよ」
 利乃と秋穂は不安そうに呟く。
 四人は改札を抜け、ほどなくしてやって来た快速電車に乗り、新大阪駅で降りて待ち合わせ場所のおみやげ街道の所へ。光洋と秀平はちゃんと待ってくれていた。
「それでは点呼を取ります。光洋さん」
「はっ、はい」
「秀平さん」
「はいぃ」
「千代古齢糖さん」
「はーいっ!」
「秋穂さん」
「はい」
「梶之助さん」
「はい」
「全員揃ってるわね。では、これから新幹線に乗るので、はぐれないようにね」
 利乃が指揮を執る。一同が新幹線乗換口へ移動しようとした際、
「ありり?」
 突如、光洋が呟いた。
「どうかしたのですか? 大迎君」
 すぐ隣にいた秀平が尋ねる。
「あのさ、おいらの乗車券が見つからないんだ。すぐ取り出せるようにポケットに入れておいたんだけど」
 光洋はズボンの両ポケットに手を突っ込みながら、やや動揺していた。
「あららら、さっそくトラブリング」
 秀平は苦笑いする。
「光洋……」
「光洋さん、いきなりハプニング起こさないで」
 梶之助と利乃は呆れ顔になった。
「この駅でさっき確かめた時はちゃんとあったんだ。そのあと、ポケットに入れて……だから、まだ近くにあるはずなのだが……」
 焦り顔で言い訳する光洋。周囲もぐるぐる見渡してみる。
「きっとその辺に落ちてるよ。そういえば光ちゃんって、小学校の時の遠足や、中学の修学旅行の時も途中で財布やデジカメを落としてたね。私も探すの手伝うよ」
「コウちゃん、ワタシも探してあげるよ」
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