はっきよい! ショコラちゃん~la mignonne petite fille~
 千代古齢糖と秋穂は彼を責めるのではなく、優しく接してくれた。
「どっ、どうも」
 光洋は緊張気味に礼を言う。その刹那、
「おーい、光洋。階段の所に落ちてたぞ」
 梶之助が彼のもとへ近寄りながら叫んで知らせてくれた。在来線ホームからここに来るまでに利用する階段の所に落ちていたのだ。
「すまねえな、梶之助殿。頼りになるぜ」
 光洋は深々とお辞儀してから受け取る。
「光ちゃんらしいね」
「コウちゃん、自分の持ち物はしっかり管理しなきゃダメだよ」
 千代古齢糖と秋穂はにっこり微笑む。
「光洋さん、乗車券はポケットにそのまま突っ込むんじゃなくて、財布に入れてリュックに入れてきちんと管理してね。そうすれば落としにくくなるので。使う直前に取り出すのよ」
「わっ、分かりましたぁ」
 利乃に困惑顔で注意され、光洋はかなり緊張してしまう。
 ともあれ一件落着。
 梶之助、千代古齢糖、秋穂、光洋、秀平、利乃の順に改札を抜けて、一同は新幹線ホームへと向かっていく。全員、柄は異なるもののリュックサックを背負っていた。
 無事辿り着くと、一同は当駅始発のためすでに停車していた東京行きのぞみ号、自由席となっている二号車に乗り込む。
 女の子三人は富士山が見られる進行方向左側の二列席を回転させ、秋穂と利乃が隣り合い、利乃の向かいに千代古齢糖が座った。
「梶之助くん、私の隣に来ない?」
「ここでいい」
 男子三人は右側の三列席に、通路側から数えて光洋、秀平、梶之助の並びで座る。
「大迎君も、一シート分で足りましたね」
「ハハハッ、当たり前ではないかぁ。座席けっこう横幅あるだろ」
 秀平にさっそく突っ込まれ、光洋は苦笑いする。
「確かに力士でも巡業とか本場所が始まる前、新幹線で移動してるけど一人一席分でちゃんと座れてるからな」
 梶之助は意外にゆったり座れている光洋を横目に見ながらこう呟いた。
 まもなくのぞみ号の扉が閉まり、動き出す。
「私、新幹線で東京方面へ行くのは初めてだよ。富士山、すごく楽しみだなあ。なんてったって日本の山の横綱だもん」
 千代古齢糖はまだ次の京都駅にも辿り着いていない今から興奮気味。
「千代古齢糖さん、はしゃぎ過ぎ。わたしは昔家族旅行で東京行った時にも乗ったことがあるけど、雨が降ってたので富士山は全然見えなかったよ。今日は静岡の方もお天気いいみたいだから、くっきりと見られそうね」
「ワタシもショコラちゃんと同じで新幹線で東京へ行くのは初めてだよ。小学校の頃、家族旅行で行った時は飛行機だったから。ワタシも富士山楽しみ♪ さてと、お菓子食べようっと」
 秋穂はそう呟いて、自分のリュックから菓子袋を取り出した。
「秋穂ちゃん、お菓子も持って来たんだね」
 千代古齢糖はにこにこしながら秋穂のリュックを覗き込む。スナック菓子やキャンディー、グミなどが十種類近く入ってあった。
「だって、遠足気分が味わいたかったんだもん。ちゃんと消費税込みで五〇〇円以内に収まってるよ」
 秋穂は照れくさがった。
「秋穂さんはお菓子が大好きだもんね。ビ○コも持って来るなんて幼稚園児みたい」
 利乃はにこにこ笑いながら言う。
「ワタシこれ、昔から大好物なの」
 秋穂は美味しそうに齧りながら、照れくさそうに打ち明けた。
「じつは私もお菓子持って来てるんだ。カ○ムーチョとわさび味のポテチ」
 千代古齢糖も自分のリュックから取り出し二人に見せる。
「千代古齢糖さん、お菓子まで辛い物揃いとは」
 利乃は少し呆れ気味に笑った。
「ショコラちゃんらしいチョイスだね。お菓子食べながらだと、テスト勉強も楽しく出来るよね」
 秋穂は続いて、古文のワークをリュックから取り出した。
「秋穂ちゃぁん、私、こんな所でそんなの見たくないよぅ」
 千代古齢糖は苦い表情を浮かべ、嘆きの声を上げる。
「さすが秋穂さん、いい心構えね。わたしも当然のように勉強道具一式持って来てるよ。千代古齢糖さん、今日現在、中間テスト六日前だってこと忘れてない?」
 利乃も自分のリュックから英語のワークを取り出し千代古齢糖の眼前にかざした。
「旅行中くらい、容赦なくやって来るその現実思い出させないでぇー。二人とも真面目過ぎるよぅ。私はこれ読んで過ごすよ」
 千代古齢糖はリュックから、最近発売されたばかりの児童文学書を取り出す。
「ショコラちゃん、赤点取ってもワタシ知らないよ」
「千代古齢糖さん、そうなっても自己責任よ」
「大丈夫だよ。これだって現代文の勉強になるし」
 こんな風に、楽しそうに会話を弾ませる女の子三人に対し、男子三人は家から持って来たラノベやアニメ雑誌、漫画などを読み、ほとんど会話を交わさず過ごしていた。

「おおおおおっ、富士山だぁーっ! やっぱ生はいいね。今年の夏こそは登りたいよ」
 途中、京都と名古屋に停車し、のぞみ号がまもなく静岡駅に差し掛かろうという頃、世界遺産『富士山』の雄大な姿が車窓に見えて来た。千代古齢糖は興奮気味に叫びながら、スマホのカメラを窓に向け撮影する。
「帰りは真っ暗で見えないと思うので、今撮影しとかないと」
「山頂の方、まだ雪がけっこう残ってるんだね」
 利乃と秋穂も楽しそうにスマホで撮影した。
 男子三人は、それほど興味を示さず。
 のぞみ号が新横浜、品川と停車し、まもなく東京駅に到着するという車内アナウンスが流れると、
「みんな、ちゃんと切符は持ってる? 特に光洋さん」
 利乃は確認を取った。
「もっ、持ってます。ちゃんと財布に入れて、リュックに入れて」
 光洋は俯き加減で緊張気味に答える。利乃も他の四人も当然のようにきちんと所持していた。
 やがて、のぞみ号は終点、東京駅に到着。
 利乃は自分以外を先に下車させ、車内に忘れ物がないかの確認をしてから下車した。
「ホームにも人、新大阪以上にめちゃくちゃ多いね。さすが日本の都市の横綱」
 千代古齢糖は好奇心いっぱいに人々を眺める。
「あっ、光洋さんに秀平さーん、勝手に先に行かないでーっ!」
 利乃がやや大きな声で注意すると、
「わっ、分かり、ました」
「申し訳ないでありますぅ」
 二人とも素直に従い、ぴたりと立ち止まってくれた。
「はぐれないように、なるべく固まって歩きましょう」
 利乃は念を押して注意する。
 一同は階段を降りていき、梶之助、光洋、秀平、千代古齢糖、秋穂、利乃の順に改札出口を抜ける。
「まだ早いけど、正午頃になると混んでくるからもうお昼ご飯食べよう」
 その後、千代古齢糖はこう提案した。
 他のみんなも賛成し、一同は東京駅構内の飲食店街を散策する。
「ここの洋食レストランでいいかな?」
 十数店舗の看板や食品サンプルを見てみて出した千代古齢糖の希望に、
「うん、周りのお店と比較して入り易そうな雰囲気なので」
「ワタシもそこがいい」
「まあ、いいんじゃないか。店が他にもいっぱいあり過ぎて選んでるとキリがないし」
 利乃も秋穂も梶之助も大いに賛成。
「あの、おいらは、ラーメンストリートで食うから」
「ボクも、そっちがいいです。そこはボクにはおしゃれ過ぎて似合わないよん」
 光洋と秀平も緊張気味に希望を述べてみる。
< 17 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop