はっきよい! ショコラちゃん~la mignonne petite fille~
「あっ、あのう、おいらは、これからアキバへ行くから」
「ボクも同じであります。というか、ボクが今回の旅行に参加した一番の理由は、アキバへ行くためでしたからぁ」
 光洋と秀平はすぐに希望を伝える。
「やっぱり。まあ東京駅から両国行くまでに、秋葉原で乗り換えるからな」
 梶之助は呆れ顔で呟いた。
「でっ、ではぁ、これからも、別行動ということでー」
「梶之助殿も、おいら達と動こうぜ」
 秀平と光洋が在来線切符売り場へ向かおうとしたところを、
「待って! 東京観光は、もしもの時のためにみんなで動いた方がいいと思います」
 利乃は意見し、二人を引き止める。
「リノちゃんの言う通りだよ。コウちゃん、シュウちゃん、ワタシ達といっしょに動こう」
「見知らぬ土地なんだし、その方が絶対いいよ」
 秋穂と千代古齢糖も利乃と同じ考えだ。
「でもぉ、きみ達はアキバには興味ないでしょう?」
 秀平は困惑顔で質問した。
「いや、あるよ。わたしも、一度秋葉原へ行ってみたかったの」
「私もーっ。アキバはオタク街の横綱だもんね」
「ワタシも、ちょっとだけ興味ある」
 女の子三人とも乗り気だった。
「「……」」
 光洋と秀平はげんなりとした表情を浮かべたが、いっしょに行動せざるを得なかった。
 六人とも大阪環状線にも何度か乗ったことがあるためか、山手線内回りに迷うことなく間違えず乗り込むことが出来、二駅隣の秋葉原で下車した。
 電気街口から出た瞬間、
「ついに来たぜ、アキバ。一六年の人生で初上陸だ」
「ボクもこの地へ降り立ったのは生まれて初めてですが、やはりガイドブックに書かれてある通り良い雰囲気の街ですね。ポンバシよりも遥かに良いです」
 光洋と秀平は興奮気味に呟く。
「ここが秋葉原かぁ。理系の街って感じだね。それに、すごい人ぉ! みんなアニメが大好きなのかなぁ?」
 千代古齢糖も大興奮していた。
「なんか、落ち着かないよぅ」
「わたしもです。人があまりに多過ぎるので」
「俺も、なんとなーく居づらい。早くこの街から出たい」
 秋穂と利乃と梶之助の率直な感想。
「梶之助殿、二次元世界にどっぷり嵌ればきっとアキバが好きになるぜ」
「アニメ系ショップの本店がいっぱいありますからね。イベントも多いですしぃ」
 光洋と秀平はとても機嫌良さそうに言う。
「光ちゃん、秀ちゃん、アキバ案内は任せたよ。どこか面白そうなお店、案内してね」
 千代古齢糖ににこやかな表情で頼まれ、
「わっ、分かりました。では……」
 秀平はやや緊張気味に承諾した。
「あのさ秀平、女の子達が引かないような店に入れよ」
 梶之助は耳打ちする。
「ゲー○ーズや、メ○ンブックスや、ら○んばんや、と○のあなや、ソ○マップは、ダメでございましょうか?」 
 秀平も囁くような声で訊き返す。
「あそこは絶対ダメだ。もっと、親子連れや、小学生くらいの子でも楽しめる店だ」
 梶之助は再度、耳打ちした。
「梶之助殿、無難に、ここか? 客の三次元女率が高いから、おいらはあまり好きではないのだが」
 光洋は秋葉原のガイドブックの該当箇所を手で指し示す。
「それがいいな」
 梶之助はオーケイを出した。
 こうして一同は中央通り沿いにある、大型アニメショップに立ち寄ることに。
 発売中または近日発売予定のアニメソングBGMなどが流れる、賑やかな店内。
 彼らと同い年くらいの子達は他にも大勢いた。
「ワタシ、こういう系の店初めて入ったよ。お店の名前見るとアニメグッズしか売ってなさそうだけど、お菓子もいっぱい売ってるんだね」 
「これって、東京でしか売られてないよね。美味しそう。わたし、このお饅頭買おう」
「私は、十二個中十個が激辛のクッキー買おうっと。あっ、このメイドさんの激辛クッキーも美味しそうじゃん。これも買おうっと!」
 女の子三人が一階土産物コーナーの商品を眺めているうちに、男子三人は三階ラノベコーナーへ。
「おう、電○の新刊、出ているではないかぁ」
「今月はけっこう読みたい作品が多いですね。GAやM○やファン○ジアの新刊も今月は良さそうなのが揃っていますし出費がかさみそうです」
 光洋と秀平はお目当てのラノベを手に取り、次々と籠に詰めていく。
「これって、そんなに面白いか? 表紙のキャラクター、全部同じ絵に見えるぞ」
 梶之助は商品に手を触れず、ただ眺めているだけだった。
「梶之助殿、全く違うではないかぁ。まだまだ稽古不足であるな」
「鬼柳君、これらのキャラの見分けが簡単につくようになれば、これから習う、似たようなのが多い三角関数の公式や、有機化合物の化学式や性質を暗記するのも楽に出来るようになるよーん」
 光洋と秀平はにこにこ顔でそう言って、上機嫌でレジへ会計を済ませに行った。
「教科の勉強とこれとは全く関係ないだろ」
 梶之助は呆れ顔。
 男子三人は続いて七階アニメDVD/ブルーレイコーナーへと移動していく。
「おいら、この作品のブルーレイすげえ集めたい。三話収録で八千は高いけど、五郎次さんからポケットマネー貰ったし、買おうかな」
 光洋はそこにあった、店内設置の小型モニターに目を留めた。今年一月から三月まで放送されていた深夜アニメのブルーレイのCMが流れていたのだ。
「光洋、五郎次爺ちゃんのじゃなくて父さんの金だから」
 梶之助が苦笑顔で伝えると、
「そうであったかぁ。ではやめた方が良いな。自分の小遣いの範囲内で済ませることにしよう」
 光洋は残念そうに告げた。
 三人はここでは何も買わずに五階へ。
「おいら、このフィグマ欲しい。けど二五〇〇円もするのかぁ。やっぱ高いなぁ。これ買ったら今月分の小遣い半分無くなるし」
 光洋は商品の箱を手に取り、全方向からじっくり観察する。
「買おう!」
 約五秒後、魅力に負けあっさり購入することに決めた。
「大迎君、やりますねえ。ボクも喉から手が出るほど欲しいグッズがあるのだよん。あのトレカとかステッカーとか」
「おいらもあれめっちゃ欲しいぜ」
 欲しいグッズを見つけては次々と買い物籠に詰めていく光洋と秀平に、
「あんまり無駄遣いするなよ」
 梶之助は呆れ顔で忠告しておいた。
 光洋と秀平は当初買う予定の無かった商品もカゴに入れ、レジに商品を持っていく。
「八七五〇円になります」
 店員さんから申されると、代金は二人で出し合った。
 同じ頃、
「このTシャツ、大関級に格好いいな、買おうかな?」
「ワタシ、このマグカップとお皿が欲しい。あっ、あのシールも」
「千代古齢糖さん、秋穂さん、お気持ちはよく分かるけど、無駄遣いは程ほどにしましょうね。きっと後悔するわよ。さっきも画材けっこういっぱい買ってたでしょう。どれか一つだけにしなさい。千円以内で」 
 女の子三人は四階の、有名週刊少年誌に登場するキャラクターグッズなどが多数売られているコーナーでけっこう楽しんでいた。
「分かったよリノちゃん。旅行中、まだまだお金使う機会いっぱいあるもんね」
「利乃ちゃん、なんかおもちゃやお菓子売り場とかで幼い子どもに、これ買うんやったらあれは買わへんよって言うママみたいだね」
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