はっきよい! ショコラちゃん~la mignonne petite fille~
 ここをあとにした一同が続いて訪れた場所は、浅草。
「やっぱ東京見物は東側エリアに限るな」
「ボクも同意です。渋谷や原宿はリア充DQN専用ですよん」
「コウちゃんとシュウちゃん、また先々行ってるよ」
 秋穂は雷門前から、仲見世通りを奥へと歩き進むその二人を目で追いながら伝える。
「仲見世通りも人多過ぎるし、迷子になるわよーっ」
 利乃も雷門前から大声で叫びかけるが、彼らは聞こえなかったのかはたまた無視しているのかさらに奥へ奥へと進んでいく。
「光ちゃんは体大きいし、目印になるからきっと大丈夫だよ」
「確かにね」
 千代古齢糖の意見に、利乃は概ね納得出来た。
 雷門をしばし眺めたり撮影したりして、梶之助達四人も仲見世通りへ。土産物屋を覗きながら浅草寺本堂に向かってゆっくり歩き進んでいく。
 光洋と秀平はきちんと本堂の前で待ってくれていた。
「勝手に動いちゃダメでしょ」
 利乃は困惑顔で注意。
「わっ、分かってたけど、おいら、つい本堂の概観に見惚れて」
「ボクも、人ごみに流されて足が勝手にぃ」
 光洋と秀平は緊張気味に言い訳になってない言い訳をする。
「次は花やしきに行かない? ここのすぐ近くだし。お化け屋敷が和風で面白そうだよ」
 千代古齢糖が提案すると、
「そこは、絶対ダメだ。渋谷原宿並に」
 光洋は即、拒否した。顔がやや蒼白していた。
「さては光ちゃん、今でもお化け屋敷苦手なんでしょう? 小学校の遠足でひ○パー行った時、班行動から逃げ出したもんね」
 千代古齢糖はにやけ顔で問い詰める。
「いっ、いや、今は、さすがに、そんな、ことはぁ……」
 光洋は首を左右にぶんぶん振る。
「もう、隠さなくても。お顔を見れば一目瞭然だよ。梶之助くんと同じで臆病だね」
 千代古齢糖はくすくす笑う。
「コウちゃん、ワタシも今でもお化け屋敷苦手だから、そこには入らないようにするよ」
 秋穂は優しく話しかける。
(わたしも今でも苦手だなぁ。光洋さんのこと笑えないです)
 利乃の今の心境。
「ボクも、お化け屋敷は幼少期から大変苦手でございます。鬼柳君もでしょう?」
 秀平は尋ねてみた。
「まあね。あの、皆、もうすぐ五時になるし、今から花やしき行ってもアトラクションあまり楽しめないと思う。そろそろ両国行こう」
 梶之助は呼びかける。
「もうそんな時間かぁ。じゃ、しょうがない。私も両国大好きだし、花やしきは諦めよう」
 千代古齢糖がそう言うと、光洋はホッと一息ついた。
 こうして一同は浅草をあとにしてJR両国駅へ。
「ママーッ、お相撲さーん」
 駅構内にて、光洋は幼い女の子に指を指された。
 ママの方は、
「本当だぁ。テレビでは見ないから、三段目くらいの子かなぁ?」
 その娘に向かってこう話しかけていた。
「光ちゃん、やっぱり力士に間違われちゃったね」
「コウちゃん、力士の風格があるよ」
「光洋さん、間違えられても不思議ではないです」
 女の子三人はついつい笑ってしまった。
「おいら、浴衣じゃなくて、私服姿なんだが……」
 光洋は苦笑いを浮かべる。
「光洋、両国歩いてたらまた力士に間違われるかもなぁ」
「リアル力士も今の時期は特に多いですからねー」
 梶之助と秀平も思わず笑ってしまった。
「おいら、両国はなるべく出歩きたくないぜ」
 光洋は肩身の狭い思いになり、ため息混じりに呟く。
「そういや両国っていうと、父さんから聞いたんだけど昔、両国予備校っていうスパルタ式のめっちゃ厳しい大学受験予備校があったんだって」
 梶之助が伝えると、
「両国予備校かぁ。ボクも小耳に挟んだことがあるよん」
「わたしもありますよ。全寮制で、校則や寮の規則も軍隊のようにとても厳しかったらしいですね」
 秀平と利乃はすぐに反応した。
「私も知ってるぅっ。五郎次お爺様からお借りした大相撲のビデオで、貴乃花の取組の懸賞にかかってたのを見たよ。相撲部屋よりも厳しかったのかなぁ?」
 千代古齢糖の呟きに、
「大相撲の取組で存在知るなんて、千代古齢糖ちゃんらしいね」
 梶之助は微笑み顔で突っ込んだ。
「怖そうだなぁ。ワタシがそこの授業に出たら、一分足らずでPTSDになりそうだよ。アウシュビッツみたいな感じなのかなぁ」
「おいらは、看板眺めただけで逃げ出しそうだぜ」
 秋穂と光洋はいろいろ想像して、恐怖心が芽生えていた。
 一同はこのあと、両国国技館のすぐ隣にある江戸東京博物館を訪れた。普段は午後五時半閉館だが、土曜日は午後七時半まで開いているのだ。
 館内を、光洋と秀平は展示物にあまり興味ないのかまたも先々進んで行ってしまった。
 他の四人は閉館時刻に気を付けながらも展示物をゆっくりと鑑賞する。
「私、この絵、めっちゃ大好き。歴史総合の教科書にもカラーで載ってるよね」
 江戸時代末期の展示がされてある場所で、千代古齢糖は興奮気味に叫んだ。
「この中に、俺のご先祖様がいるらしい。五郎次爺ちゃんが自慢げに言ってた」
 梶之助はぽつりと呟く。
 ペリーに対抗にして、力士達が米俵を担ぎ上げている様子が描かれたものだった。
「すごいね、カジノスケくんのご先祖様」
「そういえば梶之助さんちって、大昔は力士一家だったのよね」
 秋穂と利乃は彼にほんの少し敬意を示したようだ。
 江戸ゾーンでは力士の浮世絵も多数展示されていたため、六人の中で千代古齢糖が一番楽しめたようである。
 夜七時過ぎ、江戸東京博物館をあとにした一同はそこのすぐ近くにある、今夜宿泊する高級ホテルへチェックイン。
 フロント係員からルームキーを手渡されると、エレベーターを利用してお部屋へ向かっていく。三部屋ともツインルームかつ予約日時も近かったためか、同じフロア十八階に割り当てられていた。梶之助と千代古齢糖は1805号室、利乃と秋穂は1807号室、光洋と秀平は1813号室だ。
「わぁーっ、お部屋広くてすごくきれーいっ!」
 千代古齢糖は1805号室に入りルームキーを差し込んで電気をつけるや、嬉しそうに叫ぶ。
「一人当たり一泊一万以上するからな。高校生がこんな高級な所に泊まっていいのかな?」
 梶之助は少し罪悪感にも駆られていた。
「景色も横綱級にきれーい。スカイツリーが見えるよ!」
 千代古齢糖は荷物を置くと窓に近寄り、興奮気味に叫びながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
「確かに、すごくいいね」
 梶之助も景色を眺め、共感した。
「ロマンチックだね」
「うっ、うん」
 千代古齢糖に上目遣いで見つめられ、梶之助はちょっぴりドキッとしてしまう。
「スカイツリーが塔の横綱になったから、東京タワーは大関に格下げかな。でも横綱からの格下げは出来ないし、けど差が大き過ぎるし。梶之助くんは東京タワーを大関に格下げすべきだと思う?」
「どっちでも、いいんじゃないかな。あっ、あの、おっ、俺。ちょっとトイレ」
 千代古齢糖にえくぼ交じりの無邪気な表情で見つめられ、気まずくなった梶之助はそっちへ向かおうとしたら、
「梶之助くん、私もおトイレ行きたぁい。おしっこ漏れそう」
 腕をぐいっと引っ張られた。千代古齢糖はもじもじしていた。
「さっ、先にどうぞ」
「ありがとう梶之助くん。さすが男の子だね」
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