はっきよい! ショコラちゃん~la mignonne petite fille~
「私もそこ行きたぁい。日本の動物園の横綱だもんね。梶之助くんは序ノ口の最初の取組から見るから、朝からずっと両国国技館で過ごす予定って言ってたけど、大相撲はテレビ中継されない下の方の力士の取組見ても、迫力なくてあんまり面白くないからね。十両以上からだよ、面白いのは」
「わたしも上野へ行きたいので、あとで梶之助さんに相談してみましょう」
「ところで話は変わるけど利乃ちゃん、秀ちゃんのこと好きでしょう?」
「もう、千代古齢糖さん。幼稚園時代からもう何十回、いや何百回その質問してるのよ。いつも言うけど、あの子はわたしの勉強のライバルなの」
 利乃は淡々とした口調で即否定する。
「シュウちゃん、昔からすごくいい子で真面目で賢いもんね。リノちゃんが好きになっちゃう気持ちはワタシにもよく分かるよ」
 秋穂はほんわかとした表情で言った。
「だから違うって」
 利乃は困惑顔だ。
「利乃ちゃん、もういい加減、秀ちゃんと付き合っちゃいなよ。見た目と運動神経はの○太くん、頭脳は出○杉くんなところが気に入ってるんでしょ? 両親のお仕事もお互い大学教授なんだしさぁ」
 千代古齢糖はにこにこ笑いながら、利乃の肩をペチペチ叩く。
「いいって」
 利乃は俯き加減で言う。
「利乃ちゃん、お顔赤いよ」
 千代古齢糖はにやけ顔で指摘した。
「これは、体が火照って来たからなの。わたし、もう出るね」
 利乃はそう告げて慌て気味に湯船から飛び出し、脱衣場へと向かっていく。
「今何キロあるかなあ?」
 そしてすっぽんぽんのまんま、そこに置かれてある体重計にぴょこんと飛び乗った。
「……えええええっ!? 身体測定の時より、二キロも増えてるぅ。なっ、なんでぇ!? バイキング食べ過ぎた?」
 目盛を眺めた途端、利乃は目を見開き大きな叫び声を上げた。
「利乃ちゃん、贅沢な悩みだね。少々太ったっていいじゃない。私は突進力高めるためにあと五キロくらいは増やしたいのに」
 千代古齢糖も駆け寄って来て、利乃に慰めの言葉をかけてあげる。
「千代古齢糖さんはお相撲やってるからそれでいいけど、わたしは違うもん」
「体重気にした時の利乃ちゃん表情、狸っぽくってかわいかったよ」
「もう、ひっどーい。罰としてくすぐり攻撃しちゃおう」
「あーん、やだぁ」
 すっぽんぽんの利乃に追われ、千代古齢糖もすっぽんぽんで逃げ惑う。
「ショコラちゃん、サ○エさんに追われてるカ○オくんみたいだね」
 秋穂も脱衣場へ上がって来て、にこにこ微笑みながら眺めていた。
 同じ頃、
「一三八キロかぁ。さらに増えてしまったな。夏コミまでに一四〇オーバー確実だぜ」
 男湯脱衣場にて、光洋も自分の体重を量っていた。トランクス一丁で。
「光洋、太り過ぎ。光洋の身長でも八〇キロくらいが理想だろ。これ以上太ると絶対体壊すぞ。あの女の子達三人合わせた体重よりも多いんじゃないのか?」
「きっとそうであろうな」
 光洋は苦笑顔で語る。
「ボクは今日歩き回ったせいか、少し減って四九キロになっていました。ボクは鬼柳君と同じく太りにくい体質でありますからぁ」
 秀平からの報告。
「俺も五〇キロないよ。光洋はますますぶよんぶよんになっていくなぁ」
 梶之助は光洋の上半身を眺め、にこにこ笑う。
「おいら、疑問に思うんだが、リアル力士って、おいらより背が低くて体重は多いのに、おいらよりずっと体が引き締まってるやつも多いだろ」
「そりゃあ大迎君とはトレーニング量が天と地ほど違いますからぁ。力士って体脂肪率は意外と低いですよん。大迎君も力士の稽古のような猛トレーニングを長期的に積めば、現役時代の朝青龍みたいな体つきになれますよん。そのお方と身長・体重の値が近いですしぃ」
 光洋の疑問を秀平はすかさず一刀両断する。さらに助言もしてあげた。
「トレーニングなんて、おいらには百パー無理ぽ。三日坊主どころか三秒坊主だぜ」
 光洋はそう言ってにっこり笑う。
 男子三人がこうしているうちに、女の子三人組は大浴場から出てすぐの休憩所へ移動していた。
「どれにしようかな? ジンジャーエールかな」
「わたしはレモンティーにするわ」
「ワタシは、メロンクリームソーダにしよう」
 自販機でお目当てのドリンクを買うと椅子に腰掛け、お風呂上りの一杯を楽しんでいたところへ、
「いい湯でござったぁー」
「ホテルに大浴場があるのはけっこう珍しいかも」
「あれれっ、女性方は先に出ていたのですか」
 男子三人も休憩所に姿を現した。 
「お風呂上りの光ちゃん、力士っぽさがますます醸し出されてるね」
 千代古齢糖は浴衣姿の光洋を楽しそうにじーっと眺める。
「光洋さん、どう見ても相撲取りよ」
 利乃は思わず笑ってしまった。
「浴衣だもんね。コウちゃん、すごく格好いいよ」
「そっ、そんなことはぁ」(なんか、女の子特有の匂いが……)
 秋穂に褒められ、光洋はかなり動揺する。女の子三人の体から漂ってくる、ラベンダーやオレンジ、オリーブ、ミントのシャンプーや石鹸の香りが、彼の鼻腔をくすぐっていた。
「ねえ、今からゲームコーナーで遊ぼう。あそこにプリクラがあるよ。みんなでいっしょに写ろう!」
 千代古齢糖は今いる場所から数十メートル先を手で指し示す。
 ホテル内の、アミューズメント施設であった。
「けっ、結構です。おいら、フレーム内に収まらないだろうし」
「ボクもいいですぅ」
 光洋と秀平は速やかにその場から逃げ出した。
 しかし、
「走るの遅いよ、光ちゃん、秀ちゃん」
 千代古齢糖にあっという間に追いつかれ前に回られてしまう。
 次の瞬間、
「うおっ!」
 光洋は前につんのめるようにして倒れ、
「あーれー」
 秀平は尻餅をついた。
「ただいまの決まり手は、引っ掛けで光洋さんに、突き倒しで秀平さんに、千代古齢糖ちゃんの勝ちね」
 利乃は微笑み顔で決まり手を告げる。
 千代古齢糖はさっき、光洋の腕をぐいっと前へ引っ張りバランスを崩させてこかし、秀平の胸をとんっと突いて倒したのだ。
「なんという、パワー」
「ひいいい、恐ろしやぁー」
 光洋と秀平はびくびく怯える。
「光ちゃん、もっと足腰鍛えなきゃ。まるで晩年の小錦さんみたいだよ」
 千代古齢糖はにこにこ微笑む。光洋との身長四〇センチ、体重百キロ以上もの体格差も全く物ともしなかったのだ。
「梶之助くんは、もちろんいっしょに写ってくれるよねえーっ?」
「おっ、俺も、いい。プリクラは、女の子だけで撮った方が、楽しいよ」
 千代古齢糖ににじり寄られた梶之助は苦笑いを浮かべながらそう伝えて、エレベーター乗車口へ向かってタタタッと走り出す。
「待って!」
「はやっ!」
 しかし彼もあっという間に追いつかれてしまった。
「そりゃぁっ!」
「うわぁっ」
 そして一瞬のうちに千代古齢糖に体を掴まれ、豪快な捻り技を食らわされてしまった。梶之助はごろーんと床に転がる。
「ただいまの決まり手は……内無双ね」
 利乃は少し考えてから告げた。
「その通りだよ」
 千代古齢糖は嬉しそうに言う。右手で梶之助のズボンの裾をガシッとつかみ、左腕を梶之助の太ももの内側に通した状態で捻り倒したのだ。
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