はっきよい! ショコラちゃん~la mignonne petite fille~
 光洋と秀平は梶之助が技を掛けられている間にエレベーターに乗り込んでしまった。
「腰思いっきり打った。ひどいよ、千代古齢糖ちゃん」
「大丈夫? カジノスケくん。ショコラちゃん、痛がるようなことしちゃダメだよ」
 秋穂は手を差し出してくれた。
「あの、南中さん、俺、一人で起きれるから」
 けれども梶之助は照れくささからか拒否し、自力で立ち上がる。
「ごめんねー梶之助くん。一応、手加減して投げたつもりだけど」
 千代古齢糖は申し訳なさそうに謝っておいた。
「けっこう効いたよ。それにしてもプリクラか……」
 梶之助は気が進まなかったが、
「ご当地限定のプリクラあるかなぁ?」 
「梶之助さん、高校時代の思い出になるのでいっしょに写りましょう」
 秋穂と利乃はかなり乗り気であった。
 四人はいくつかあるうち最寄りのプリクラ専用機内に足を踏み入れる。
 前側に千代古齢糖と梶之助が並んだ。
「このフレームにしよう!」
 千代古齢糖の選んだ東京スカイツリーのフレームに、他の三人も快く賛成。
「一回五百円か。けっこう高いね」
 梶之助はこう感じながらも気前よくお金を出してあげた。
 撮影落書き完了後、
「おう、めっちゃきれいに撮れてるじゃん!」
 取出口から出て来た、十六分割されたプリクラをじっと眺める千代古齢糖。自分が見たあと他の三人にも見せる。
「千代古齢糖ちゃん、梶之助くんとデート、ハートマークとかって落書きしないで」
 梶之助は少し顔をしかめる。
「いいじゃん、梶之助くん、ほとんど事実なんだし」
 千代古齢糖はてへっと笑い、舌をペロッと出した。
「リノちゃんは、相変わらず写真写りの表情がちょっと硬いね」
「本当だ。なんか弁護士みたーい」
 秋穂と千代古齢糖が微笑みながら突っ込むと、
「あれれ? 笑ったつもりなんだけどな」
 利乃は少し照れくさそうにする。
「利乃ちゃん、鏡を使って笑顔作りの稽古を積むべきだよ。そうすれば秀ちゃんはきっと振り向いてくれるよ」
 千代古齢糖はにこっと笑ってアドバイスした。
「千代古齢糖さん、その話はもういいから」
「いたたたたぁ、ごめん利乃ちゃん」
 利乃はニカッと笑って千代古齢糖のぷにぷにほっぺを両サイドからぎゅーっとつねる。
「リノちゃんのさっきの表情、けっこう素敵だったよ。あの、ワタシ、次はこれがやりたいな」
 秋穂は、プリクラ専用機向かいに設置されていた筐体を指差した。
「秋穂ちゃん、動物のぬいぐるみが欲しいんだね?」
「うん!」
 千代古齢糖からの問いかけに、秋穂は満面の笑みを浮かべて弾んだ気分で答える。秋穂がやりたがっていたのはお馴染みのクレーンゲームだ。
「動物さんのぬいぐるみは特にかわいいよね」
 利乃は同調する。
「あっ! あのナマケモノのぬいぐるみさんとってもかわいい! お部屋に飾りたぁい」
 お気に入りのものを見つけると、秋穂は透明ケースに手のひらを張り付けて叫び、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
 めちゃくちゃかわいいな。
 梶之助はその幼さ溢れるしぐさに見惚れてしまったようだ。
「秋穂ちゃん、あれは隅の方にあるし、他のぬいぐるみの間に少し埋もれてるから、難易度は横綱級だよ」
「大丈夫!」
 千代古齢糖のアドバイスに対し、秋穂はきりっとした表情で自信満々に答えた。コイン投入口に百円硬貨を入れ、操作ボタンに両手を添える。
「秋穂ちゃん、頑張れーっ!」
「秋穂さん、落ち着いてやれば、きっと取れるわよ」
「南中さん、頑張って」
 三人はすぐ後ろ側で応援する。
「ワタシ、絶対取るよーっ!」
 秋穂は真剣な眼差しで慎重にボタンを操作してクレーンを動かし、お目当てのぬいぐるみの真上まで持っていくことが出来た。
 続いてクレーンを下げて、アームを広げる操作。 
「あっ、失敗しちゃった」
 ぬいぐるみはアームの左側に触れたものの、つかみ上げることは出来なかった。
 秋穂が再度クレーンを下げようとしたところ、制限時間いっぱいとなってしまった。クレーンは自動的に最初の位置へと戻っていく。
「もう一回やるもん!」
 秋穂はとっても悔しがる。お金を入れて、再チャレンジ。しかし今回も失敗。
「今度こそ絶対とるよ!」
 この作業をさらに繰り返す。
 秋穂は一度や二度の失敗じゃへこたれない頑張り屋さんらしい。
 けれども回を得るごとに、
「全然取れなぁい……」
 徐々に泣き出しそうな表情へと変わっていく。
「あのう、秋穂さん、他のお客さんも利用するので、そろそろ諦めた方がいいかもです」
 利乃は慰めるように言った。
「諦めたくない」
 秋穂は諦め切れない様子。お目当てのぬいぐるみを見つめながら、悔しそうに唇を噛み締める。
「気持ちは分かるのですが……わたしも一度やると決めたことは、最後までやり遂げたいから」
 利乃は深く同情した。
「このままだと秋穂ちゃんかわいそう。ねえ梶之助くん、小学五年生の頃、秋穂ちゃんに裁縫セットを秋穂ちゃんに貸してもらったことがあるでしょ。恩返ししてあげなよ」
 千代古齢糖に肩をポンッと添えられ命令されると、
「……よく覚えてるね。でも俺も、クレーンゲーム得意じゃないし、真ん中ら辺のサイのやつはなんとかなりそうだけど、あれはちょっと無理だな」
 梶之助は困惑顔で呟いた。
「カジノスケくん、お願ぁい!」
「……分かった。取ってあげる」
 それでも秋穂にうるうるとした瞳で見つめられると、梶之助のやる気が急激に高まった。クレーンゲームの操作ボタン前へと歩み寄る。
「ありがとう、カジノスケくん。大好き♪」
 するとたちまち秋穂のお顔に、笑みがこぼれた。
「さすが梶之助くん、鬼柳家の男だね」
「梶之助さん、心優しいですね」
 千代古齢糖と利乃も、彼に対する好感度が高まったようだ。
(まずい。全く取れる気がしない)
 梶之助の一回目、秋穂お目当てのぬいぐるみがアームにすら触れず失敗。
「カジノスケくんなら、絶対取れるはず♪」
 背後から秋穂に、期待の眼差しで見つめられる。
(どうしよう)
 当然のように、梶之助はプレッシャーを感じてしまう。
「梶之助くん、頑張れーっ!」
「梶之助さん、ご健闘を祈ります!」
(よぉし、やってやるぞ)
 千代古齢糖と利乃からの声援を糧に梶之助は精神を研ぎ澄ませ、再び挑戦する。
 しかしまた失敗した。アームには触れたものの。
 けれども梶之助はめげない。
「カジノスケくん、頑張ってーっ。さっきよりは惜しいところまでいったよ」
 秋穂からも熱いエールが送られ、
「任せて南中さん。次こそは取るから」
 梶之助はさらにやる気が上がった。
 三度目の挑戦後。
「……まさか、本当にこんなにあっさりいけるとは思わなかった」
 取出口に、ポトリと落ちたナマケモノのぬいぐるみ。
 梶之助は、秋穂お目当ての景品をゲットすることが出来た。ついにやり遂げたのだ。
「やったぁ! さすがカジノスケくん」
 秋穂は大喜びし、バンザーイのポーズを取った。
「梶之助くん、おめでとう! 日馬富士の綱取りと同じく三度目の正直だね」
「梶之助さん、素晴らしいプレイでしたね」
 千代古齢糖と利乃がパチパチ拍手しながら褒めてくれる。
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