はっきよい! ショコラちゃん~la mignonne petite fille~
利乃と秋穂も快く賛成する。そんなわけでジャイアントパンダ、アジアゾウ、スマトラトラ、ニシローランドゴリラなどなど園内他の動物達は観察と撮影だけに留めておいた。
モノレールを乗り継いで西園のハシビロコウの檻の前に辿り着いた後、
「ハシビロコウさん、本当に動かないわね」
「剥製みたいだよ」
「何があっても動じない、木鶏の精神だね。いいモデルになりそう」
女の子三人は何羽かいるハシビロウを、彼女達もその鳥達のように動かないまましばらくじーっと眺めていた。
そののち、女の子三人は立ったままの姿勢でスケッチブックを開き、4B鉛筆で写生していく。
梶之助はその間、ハシビロコウをデジカメに収め、近くの檻に飼育されているベニイロフラミンゴ、エミュー、オオアリクイなどなど他の動物の観察もしていた。
女の子三人が描き始めてから五分ほどして、
「出来たぁーっ!」
千代古齢糖が最初に鉛筆を置く。
「なんか幼稚園児の落書きみたいよ。わたしの絵を見て」
利乃はくすっと笑い、描きかけの自分の絵を千代古齢糖に見せた。
「利乃ちゃんの絵はリアル過ぎてちょっと怖いよ。私の方がかわいいもん!」
千代古齢糖は顔をぷくっと膨らませ、強く主張する。
「秋穂さんの絵は、メルヘンチックでとっても素晴らしいです」
「そうかなぁ?」
利乃に大絶賛され、秋穂は少し照れてしまう。
「私と似たようなタイプの絵なのに、なにその扱いの違い」
千代古齢糖は利乃をむすっとした表情で睨み付ける。
「千代古齢糖さんは絵本作家志望みたいだから、厳しめに採点してみました」
利乃はにこっと微笑んだ。
「なんかバカにされてる感じだよ。梶之助くんも写生してみる?」
千代古齢糖は梶之助の側に近寄り、スケッチブックを渡そうとする。
「いいよ。俺、絵は自信ないし」
梶之助は丁重に断った。
「あーん、梶之助くんの写生、見たいよぅ。写生してしてぇ。習字は上手いんだから」
「ワタシも見たいなぁ。カジノスケくんの描いた絵」
「わたしも見てみたいです。梶之助さんの几帳面な性格からして、細かい所まで丁寧に描いてくれそうですし」
三人は強く要求してくる。
「勘弁して。俺、本当に絵ぇ下手だから」
梶之助は苦笑顔でお願いした。
「ごめんなさい梶之助さん、プレッシャー感じて余計に描けなくなるよね。どれが一番お気に入りですか?」
利乃の質問に、
「うーん、……どれも、同じかな」
梶之助は三人の絵をぐるりと見渡し、五秒ほど考えてから答える。
「さすがカジノスケくん、平等に判断してくれてありがとう」
「心優しいですね」
秋穂と利乃は嬉しそうに微笑む。
「引き分けかぁ。梶之助くん、私の顔色窺ったでしょう? 相撲の技掛けられると思って」
千代古齢糖に顔を近づけられにこやかな表情で問い詰められると、
「いっ、いや、そんなことは……」
梶之助はやや顔を引き攣らせ、若干緊張気味に答えた。
「もう、正直に答えても私何もしないのにぃ」
千代古齢糖が爽やかな表情で言ったその時、
「あっ! ハシビロコウさん。ついに動いちゃったよ。まだ完成してないのに」
秋穂が残念そうな声を漏らした。何羽かいるハシビロコウのうちの一羽が、水飲み場へ移動してしまったのだ。
「ハシビロコウ未だ木鶏たりえず、だね。秋穂ちゃん、ここにいるのを全部描こうとしたのかぁ」
千代古齢糖は秋穂の描いた絵を覗き込んでみた。
「うん。だって一羽だけモデルにしたら、モデルにされなかった他のハシビロコウさん、かわいそうだもん」
真剣な眼差しで答えた秋穂に、
「秋穂ちゃん、心優しい」
千代古齢糖は深く感心する。
「わたしもそうしようとは思ったけどね。またもう一羽動いちゃったし」
利乃も秋穂と同じように残念がっていた。別の一羽が羽をバサッと広げ飛び立ち、檻の隅の方へ移動してしまったのだ。
こうして秋穂と利乃はやむなくここで写生を中断。四人は残りの動物達も足早に観察してお昼過ぎに動物園を出て、続いて国立科学博物館へ立ち寄る。
「おううううう、クジラの横綱、シロナガスクジラだぁーっ!」
屋外展示されてある、シロナガスクジラのオブジェを目にすると、千代古齢糖は興奮気味に叫びながら一目散にすぐ側まで駆け寄っていく。
「わっ! ものすごく大きい。実物大なのかな?」
「みたいね」
秋穂と利乃も思わず魅入ってしまった。
(俺のご先祖様、シロナガスクジラも素手で引き上げたらしいけど、絶対嘘だな)
梶之助もその巨大さに圧倒され、こう確信してしまった。元より、梶之助は五郎次爺ちゃんからたびたび聞かされる鬼柳家にまつわる風聞は冗談半分で聞いていたが。
四人はもう一つの屋外展示、蒸気機関車もついでに眺め、いよいよ館内へ。
館内には小さな子どもを連れた親子も大勢。展示室は日本館と地球館とに分かれており、四人はまず地球館から巡ることにした。
「この剥製、すごいね。この中で相撲取らせたら、横綱はきっとサイだね。ヒグマとトラとライオンは大関かな?」
野生動物の剥製がガラス越しに多数展示されてある場所で、千代古齢糖は目をきらきら輝かせながら大声ではしゃぐ。
「千代古齢糖さん興奮し過ぎ。周りで騒いでるおそらく就学前のちっちゃい子達と変わりないわよ。恐竜の展示を見たらさらに興奮しそうね」
そんな姿を横目に見て利乃は微笑む。彼女自身も叫びたくなるくらい剥製の迫力にけっこう興奮していた。
「カジノスケくん、ここに展示されてる動物さん達、今にも動き出しそうなくらいリアルだね」
「うん、精巧過ぎる。絶滅したニホンオオカミのもあるのか」
秋穂と梶之助もやや興奮気味に観察していた。
四人は他の展示室も楽しみながら巡っていく。
「もうすぐ三時か。そろそろここを出て、両国行かないと」
宇宙・物質・法則に関する展示がされてある場所で梶之助はスマホの時計を確認した。
「まだ全部の展示見れてないから残念だけど、本来はそっちがメインだもんね」
千代古齢糖は月の石を眺めながら名残惜しそうにする。
「日本館もあるから、まだ半分も回れてないんだよね。すごく楽しい場所なんだけどワタシ、もう歩き疲れちゃったよ。ここは大塚国際美術館みたいに何回かに分けて見に行かないと、全貌が掴めないよね」
「広過ぎるでしょう。しかも高校生以下は無料だから、わたし前に家族旅行で来た時に、すごく気に入ったの。東京に住んでたら絶対毎週のように通っちゃうよ」
四人が博物館から出て、JR上野駅へと向かっていく途中、梶之助のスマホに電話がかかって来た。
「光洋か」
通話アイコンをタップすると、
『梶之助殿ぉ、聞いてくれぇ。大きな事件が起こったんだぁー』
「どっ、どうした光洋!?」
いきなり光洋から焦るような声でされた報告に、梶之助は驚く。
『おいら、財布をどこかで落としたんだ。帰りの乗車券入りの』
「おいおい、またかよ。光洋にとってはべつに大きな事件でもないだろ。今どこにいるんだ?」
『神保町。イベントの後、古本屋巡りをしようと思ってアキバから歩いて来たんだ』
『鬼柳君、大迎君は、どうやら秋葉原から神保町にかけての路上で落としてしまったようです』
モノレールを乗り継いで西園のハシビロコウの檻の前に辿り着いた後、
「ハシビロコウさん、本当に動かないわね」
「剥製みたいだよ」
「何があっても動じない、木鶏の精神だね。いいモデルになりそう」
女の子三人は何羽かいるハシビロウを、彼女達もその鳥達のように動かないまましばらくじーっと眺めていた。
そののち、女の子三人は立ったままの姿勢でスケッチブックを開き、4B鉛筆で写生していく。
梶之助はその間、ハシビロコウをデジカメに収め、近くの檻に飼育されているベニイロフラミンゴ、エミュー、オオアリクイなどなど他の動物の観察もしていた。
女の子三人が描き始めてから五分ほどして、
「出来たぁーっ!」
千代古齢糖が最初に鉛筆を置く。
「なんか幼稚園児の落書きみたいよ。わたしの絵を見て」
利乃はくすっと笑い、描きかけの自分の絵を千代古齢糖に見せた。
「利乃ちゃんの絵はリアル過ぎてちょっと怖いよ。私の方がかわいいもん!」
千代古齢糖は顔をぷくっと膨らませ、強く主張する。
「秋穂さんの絵は、メルヘンチックでとっても素晴らしいです」
「そうかなぁ?」
利乃に大絶賛され、秋穂は少し照れてしまう。
「私と似たようなタイプの絵なのに、なにその扱いの違い」
千代古齢糖は利乃をむすっとした表情で睨み付ける。
「千代古齢糖さんは絵本作家志望みたいだから、厳しめに採点してみました」
利乃はにこっと微笑んだ。
「なんかバカにされてる感じだよ。梶之助くんも写生してみる?」
千代古齢糖は梶之助の側に近寄り、スケッチブックを渡そうとする。
「いいよ。俺、絵は自信ないし」
梶之助は丁重に断った。
「あーん、梶之助くんの写生、見たいよぅ。写生してしてぇ。習字は上手いんだから」
「ワタシも見たいなぁ。カジノスケくんの描いた絵」
「わたしも見てみたいです。梶之助さんの几帳面な性格からして、細かい所まで丁寧に描いてくれそうですし」
三人は強く要求してくる。
「勘弁して。俺、本当に絵ぇ下手だから」
梶之助は苦笑顔でお願いした。
「ごめんなさい梶之助さん、プレッシャー感じて余計に描けなくなるよね。どれが一番お気に入りですか?」
利乃の質問に、
「うーん、……どれも、同じかな」
梶之助は三人の絵をぐるりと見渡し、五秒ほど考えてから答える。
「さすがカジノスケくん、平等に判断してくれてありがとう」
「心優しいですね」
秋穂と利乃は嬉しそうに微笑む。
「引き分けかぁ。梶之助くん、私の顔色窺ったでしょう? 相撲の技掛けられると思って」
千代古齢糖に顔を近づけられにこやかな表情で問い詰められると、
「いっ、いや、そんなことは……」
梶之助はやや顔を引き攣らせ、若干緊張気味に答えた。
「もう、正直に答えても私何もしないのにぃ」
千代古齢糖が爽やかな表情で言ったその時、
「あっ! ハシビロコウさん。ついに動いちゃったよ。まだ完成してないのに」
秋穂が残念そうな声を漏らした。何羽かいるハシビロコウのうちの一羽が、水飲み場へ移動してしまったのだ。
「ハシビロコウ未だ木鶏たりえず、だね。秋穂ちゃん、ここにいるのを全部描こうとしたのかぁ」
千代古齢糖は秋穂の描いた絵を覗き込んでみた。
「うん。だって一羽だけモデルにしたら、モデルにされなかった他のハシビロコウさん、かわいそうだもん」
真剣な眼差しで答えた秋穂に、
「秋穂ちゃん、心優しい」
千代古齢糖は深く感心する。
「わたしもそうしようとは思ったけどね。またもう一羽動いちゃったし」
利乃も秋穂と同じように残念がっていた。別の一羽が羽をバサッと広げ飛び立ち、檻の隅の方へ移動してしまったのだ。
こうして秋穂と利乃はやむなくここで写生を中断。四人は残りの動物達も足早に観察してお昼過ぎに動物園を出て、続いて国立科学博物館へ立ち寄る。
「おううううう、クジラの横綱、シロナガスクジラだぁーっ!」
屋外展示されてある、シロナガスクジラのオブジェを目にすると、千代古齢糖は興奮気味に叫びながら一目散にすぐ側まで駆け寄っていく。
「わっ! ものすごく大きい。実物大なのかな?」
「みたいね」
秋穂と利乃も思わず魅入ってしまった。
(俺のご先祖様、シロナガスクジラも素手で引き上げたらしいけど、絶対嘘だな)
梶之助もその巨大さに圧倒され、こう確信してしまった。元より、梶之助は五郎次爺ちゃんからたびたび聞かされる鬼柳家にまつわる風聞は冗談半分で聞いていたが。
四人はもう一つの屋外展示、蒸気機関車もついでに眺め、いよいよ館内へ。
館内には小さな子どもを連れた親子も大勢。展示室は日本館と地球館とに分かれており、四人はまず地球館から巡ることにした。
「この剥製、すごいね。この中で相撲取らせたら、横綱はきっとサイだね。ヒグマとトラとライオンは大関かな?」
野生動物の剥製がガラス越しに多数展示されてある場所で、千代古齢糖は目をきらきら輝かせながら大声ではしゃぐ。
「千代古齢糖さん興奮し過ぎ。周りで騒いでるおそらく就学前のちっちゃい子達と変わりないわよ。恐竜の展示を見たらさらに興奮しそうね」
そんな姿を横目に見て利乃は微笑む。彼女自身も叫びたくなるくらい剥製の迫力にけっこう興奮していた。
「カジノスケくん、ここに展示されてる動物さん達、今にも動き出しそうなくらいリアルだね」
「うん、精巧過ぎる。絶滅したニホンオオカミのもあるのか」
秋穂と梶之助もやや興奮気味に観察していた。
四人は他の展示室も楽しみながら巡っていく。
「もうすぐ三時か。そろそろここを出て、両国行かないと」
宇宙・物質・法則に関する展示がされてある場所で梶之助はスマホの時計を確認した。
「まだ全部の展示見れてないから残念だけど、本来はそっちがメインだもんね」
千代古齢糖は月の石を眺めながら名残惜しそうにする。
「日本館もあるから、まだ半分も回れてないんだよね。すごく楽しい場所なんだけどワタシ、もう歩き疲れちゃったよ。ここは大塚国際美術館みたいに何回かに分けて見に行かないと、全貌が掴めないよね」
「広過ぎるでしょう。しかも高校生以下は無料だから、わたし前に家族旅行で来た時に、すごく気に入ったの。東京に住んでたら絶対毎週のように通っちゃうよ」
四人が博物館から出て、JR上野駅へと向かっていく途中、梶之助のスマホに電話がかかって来た。
「光洋か」
通話アイコンをタップすると、
『梶之助殿ぉ、聞いてくれぇ。大きな事件が起こったんだぁー』
「どっ、どうした光洋!?」
いきなり光洋から焦るような声でされた報告に、梶之助は驚く。
『おいら、財布をどこかで落としたんだ。帰りの乗車券入りの』
「おいおい、またかよ。光洋にとってはべつに大きな事件でもないだろ。今どこにいるんだ?」
『神保町。イベントの後、古本屋巡りをしようと思ってアキバから歩いて来たんだ』
『鬼柳君、大迎君は、どうやら秋葉原から神保町にかけての路上で落としてしまったようです』