お嬢様は“いけないコト”がしたい
幸治君と電車に揺られ、2人で一緒に住むマンションがあるオフィス街からお買い物が出来る街へと来た。
昨日とは違いお洒落というよりはもっと賑やかな街へと来て、複合施設の中を見ていく。



「可愛い~!!」



沢山飾られているぬいぐるみの1つ、大きなネコのぬいぐるみを手に取り幸治君に見せる。



「・・・どこが!?
そんな不細工なネコよりこっちの普通のネコの方が可愛いですよね!?」



「え~・・・?
そのネコは普通すぎて“普通に可愛いな”で終わっちゃうもん。
こっちのネコはブタちゃんみたいで可愛い。」



「・・・一美さんって残念な奴が好きな感じですか?
だから残念だった“中華料理屋 安部”が好きだったんですか?」



幸治君が結構怒りながら聞いてきて、私は少しだけ考えた後に答えた。



「“中華料理屋 安部”は残念でも何でもなかったけど。
最悪なだけの日になるはずだった私の24歳の誕生日を、“中華料理屋 安部”は特別な1日にしてくれたくらいだよ?
それに“中華料理屋 安部”があったから、私はお嬢様の羽鳥一美を大変な状況の中で続けられてもいたし。」



ブタちゃんみたいなネコのぬいぐるみを抱き締めながら幸治君に伝える。



「高級な良い物だったらお嬢様の私は知ってる。
でも、高級な良い物でもない、特別に惹かれたモノは後にも先にも“中華料理屋 安部”だけだった。」



「・・・“普通の幸治君”は普通の男ですからね。」



「幸治君の自己申告では普通みたいだね?
でも、“中華料理屋 安部”はあのお店から出てくれることはなかったみたいだから、幸治君が“普通”になってくれててよかったよ?」



「そうですね・・・“普通”になれていて良かったです。」



幸治君が私の両手からブタちゃんみたいなネコをスッと抜き取った。



「どう見てもどう考えても“いらないだろ”と思う不細工なネコのぬいぐるみもプレゼント出来るくらいの“普通”の男にはなれましたから。」



「・・・そんなことを凄く不機嫌な顔で言われても!!」



レジへと向かう幸治君の背中に文句を言うと・・・



「300円のハンカチの次はこの不細工なネコのぬいぐるみとか、俺にもっとちゃんとした物をプレゼントさせてくださいよ!!」



幸治君の背中がそう怒ってくるので、私もムッとして言い返した。



「じゃあ高いスニーカーをプレゼントしてね!?」



「何百万のスニーカーでもプレゼントしますよ!!」



その返事には驚いてしまう。
レジにいた若い店員さんの女性も驚きながら幸治君のことを見て、それから私のことを見てもっと驚いた顔になった。



「幸治君ってそんなにお金稼いでるの?」



「・・・こんな場所でそんなことを言うものじゃないですね。
撤回します、俺は高卒で借金がある男なので。」



驚きながらブタちゃんみたいなネコのお会計をしていく店員さんに幸治君が爽やかな笑顔で笑い掛けた。



「だから僕の奥さん、こんなに“ヤバい奥さん”なんですよね。」



幸治君が爽やかに、そして嬉しそうに笑って私のことを指差してきた。



「奥様、“中華料理屋 安部”、ですね・・・っ」



若い店員さんが笑いを堪えながらも優しい顔で幸治君のことを見上げていて、幸治君は大笑いしながらお会計が終わったブタちゃんネコを私に渡してくれた。
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