お嬢様は“いけないコト”がしたい
「ヤバい、失敗した・・・。」



複合施設内を歩く幸治君が小さな声で呟いた。



「どうしたの?」



「不細工なネコ、帰りに買えばよかった・・・。」



「帰りに?
抱っこをしてるけど邪魔じゃないよ?」



聞いた私に幸治君の横顔が苦笑いになった。



「めっっっちゃ見られてる。」



「いつも見られてるし、昨日も見られてたよ?」



「いつも見られてるのも昨日見られてたのも、一美さんがめちゃくちゃ美人だからですよ。」



「まあ、私はお金を掛けてるからね。
昨日は幸治君だってよく見られてたよ?
再会した時にも“イケメン”って言われてたし、幸治君も格好良いからよく見られるの?」



「あそこまでジロジロと見られたのは昨日が初めてですね。
とんかつ屋でお客さんにも言われましたけど、一美さんをどんな男が連れてるのか確認されてたんでしょうね。
でも今は・・・」



苦笑いを続けた幸治君が隣に歩く私のことを見下ろしてきた。



「“中華料理屋 安部”のティーシャツ、明らかに大きいハーフパンツ、なのに綺麗なバッグと高いヒールの靴、更には不細工なネコを抱いためちゃくちゃ美人な“ヤバいお姉さん”を連れている俺を確認されてる・・・。」



「ランチも幸治君がお会計してくれたしぬいぐるみも買ってくれて、鞄いらなかったよね。
鞄も持たないでスニーカーだったらチグハグな格好じゃないからヤバくないでしょ?」



「そういう問題でもないような・・・っ。」



吹き出すように笑った幸治君と並び、私は張り切りながら靴屋さんへと入った。
知識としては知っている、初めて入る普通の靴屋さんへ。



そしてスニーカーを試着し、大変なことが私に起きた・・・。



「・・・幸治君、歩けない・・・っ」



「どういうことですか?」



スニーカーを試着した私は、両足に物凄く違和感を感じながらぎこちなく歩いていく。



「あれ・・・スニーカーってどうやって歩くんだっけ?」



「・・・どういうこと!?
スニーカー履いたことないんですか!?」



「学生の時は運動靴を履いて体育をやってたけど、社会人になってからはヒールのないパンプスを若い時にたまに履いたくらいで・・・。」



「たまにジムに行ってるって言ってませんでした?」



「ジムのプールなんだよね・・・。」



「・・・水着になってるってこと?」



「それは勿論。」



「・・・旦那としてそれは無理。
他の男にほぼ裸見せてるとか無理。」



「ほぼ裸じゃないから!!
長袖のラッシュガードを着てるし、下も太ももまでの履いて・・・ぁ・・・っっ」



幸治君の発言には驚きながら返事をしていたら、そっちに気を取られて平らな床で転びそうになった。



その瞬間・・・



近くに立っていた幸治君が私の身体を抱き止めてくれた。



「なんか俺、自信なんてないはずなのに旦那になったら独占欲出てきた・・・。」




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