お嬢様は“いけないコト”がしたい
幸治君の言葉に、私は凄くドキドキとした。
苦しいくらいにドキドキとして、苦しみながらも“嬉しい”と思った。
幸治君は困った顔で私に笑い掛け、また私から視線を逸らした。
「当時は高校生のガキだったので、そう答えていたと思います。
羽鳥さんの為に自分が出来ることとかそんなことではなく、男子高校生のガキとしてそう答えていたと思います。」
少しだけ顔を赤らめ照れたように笑っている幸治君の横顔を見詰めながら、私はドキドキと苦しみながら小さく頷いた。
私は知っていた。
幸治君がそう返事をしてくれると分かっていた。
高校生だった幸治君が、7歳も8歳も年上の私のことを異性として好きでいてくれたことを私は知っていたから。
だから“中華料理屋 安部”にはもう行けないと思った。
もう行ってはいけないと何度も思って、何度も何度も自分に言い聞かせていた。
幸治君が高校3年生で私が25歳、幸治君が高校を卒業する数日前に私は“中華料理屋 安部”へ行くのを終わりにした。
お嬢様の私が1つだけしていた“いけないコト”を終わりにした。
醤油ラーメン1杯が税込で650円、そんな驚くほどお安いお金で、これまで食べてきたどんな高級な料理よりも美味しい醤油ラーメンが食べられるお店。
そして私にとって厳しすぎる現実を突き付けてくる失礼な男子高校生が営んでいるお店。
そんな幸治君に言いたいことを散々言った、年齢は大人の私。
戦後、日本をリードしてきた財閥の1つ、増田財閥の分家の女として私は生まれ育った。
増田財閥の本家の1人娘だった女と結婚したのは増田ホールディングスに勤めていた、小さな商店街出身の男。
その男と本家の1人娘が結婚したことにより婿養子が財閥のトップに立つ。
それを気に入らないとも思っていた分家の人間達が好き勝手に動き始めてしまっていた。
そんな中、私のお父さんは私を分家の人間として正しく教育し続けてきた。
自分自身も正しく生き続けながら、分家の人間として生きるその姿を私に見せ続けた。
だから、知ったからには終わりにしないといけないと思った。
幸治君の気持ちを知ってしまったからには、もう会うわけにはいかなかった。
綺麗でいなければいけない。
私は常に綺麗で正しくいなければいけない。
そうやって頑張って生きなければいけない。
苦しいくらいにドキドキとして、苦しみながらも“嬉しい”と思った。
幸治君は困った顔で私に笑い掛け、また私から視線を逸らした。
「当時は高校生のガキだったので、そう答えていたと思います。
羽鳥さんの為に自分が出来ることとかそんなことではなく、男子高校生のガキとしてそう答えていたと思います。」
少しだけ顔を赤らめ照れたように笑っている幸治君の横顔を見詰めながら、私はドキドキと苦しみながら小さく頷いた。
私は知っていた。
幸治君がそう返事をしてくれると分かっていた。
高校生だった幸治君が、7歳も8歳も年上の私のことを異性として好きでいてくれたことを私は知っていたから。
だから“中華料理屋 安部”にはもう行けないと思った。
もう行ってはいけないと何度も思って、何度も何度も自分に言い聞かせていた。
幸治君が高校3年生で私が25歳、幸治君が高校を卒業する数日前に私は“中華料理屋 安部”へ行くのを終わりにした。
お嬢様の私が1つだけしていた“いけないコト”を終わりにした。
醤油ラーメン1杯が税込で650円、そんな驚くほどお安いお金で、これまで食べてきたどんな高級な料理よりも美味しい醤油ラーメンが食べられるお店。
そして私にとって厳しすぎる現実を突き付けてくる失礼な男子高校生が営んでいるお店。
そんな幸治君に言いたいことを散々言った、年齢は大人の私。
戦後、日本をリードしてきた財閥の1つ、増田財閥の分家の女として私は生まれ育った。
増田財閥の本家の1人娘だった女と結婚したのは増田ホールディングスに勤めていた、小さな商店街出身の男。
その男と本家の1人娘が結婚したことにより婿養子が財閥のトップに立つ。
それを気に入らないとも思っていた分家の人間達が好き勝手に動き始めてしまっていた。
そんな中、私のお父さんは私を分家の人間として正しく教育し続けてきた。
自分自身も正しく生き続けながら、分家の人間として生きるその姿を私に見せ続けた。
だから、知ったからには終わりにしないといけないと思った。
幸治君の気持ちを知ってしまったからには、もう会うわけにはいかなかった。
綺麗でいなければいけない。
私は常に綺麗で正しくいなければいけない。
そうやって頑張って生きなければいけない。