お嬢様は“いけないコト”がしたい
苦しい胸のドキドキを感じながら、幸治君からプレゼントして貰ったタオルハンカチを強く強く握り締める。



瞳を揺らしながら驚いた顔をしている幸治君を見詰めながら。



動揺しているのだと分かる。
私が動揺させてしまっている。



それは分かるけれど、続けた。



「今、彼女はいるの?」



「いえ・・・いませんけど・・・。」



「好きな女の子は?」



「そういう子も、いませんでしたけど・・・。」



それには今度は私が驚く。



「23歳の男の子だし、そういうの“普通”にあるのかと思ってた。」



「俺、“普通”といわれるであろう生活をつい最近までしていませんでしたので。
あの煩くて面倒でヤバい人からマジで・・・マジでヤバい生活を送らされてたので・・・!!」



幸治君が最後は叫びながら嘆いた。
そんな姿には思わず笑ってしまうと、幸治君は怒った顔で私のことを見た。



「マジで全然笑えないやつで。
若かったから出来ましたけど、今もう1度同じことをやれって言われたら不可能です。
女の子とどうこうなれるような時間も余裕も一切なかったですし、あの時に女の子とどうにかなっていたらあの人に毎日煩く言われるのは分かりきっていたので、そんな面倒なことは自ら起こしたくもありませんでしたし。」



一気に話した幸治君が一瞬だけ息継ぎをし、真剣な顔で私を見てきた。



「すみません、その“いけないコト”には付き合えません。」



「どうして・・・?」



「まず、避妊具ありませんし。」



「来る途中にコンビニがあったよね?
今買ってくるよ。」



「・・・アレをしていても何が起きるか分かりませんからね。
あの人が毎日のように、“避妊してたけど今までの彼女が妊娠してなくてマジで良かった”と騒いでいるのを聞いているので、俺は羽鳥さんと避妊具が必要なことはしたくありません。
“何か”が起きたとしても、俺は羽鳥さんと結婚なんて出来ないので。」



幸治君がそう言って、ブランド物の腕時計を見下ろした。



「駅まで送ります。」
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