お嬢様は“いけないコト”がしたい
私の誕生日はあと1時間ちょっと残っているのに、幸治君がそう言って立ち上がった。
私から逃げるように立ち上がってしまった。



ワイシャツ姿で腕捲りをしている幸治君の背中を眺めながら、私は流れてきた涙をタオルハンカチで拭う。
さっき初めて知った幸治君の大きな手の熱を思い浮かべながら。



そして、大人の男の人になった幸治君の背中に言った。



「借金、いくらあるの?」



私の言葉に幸治君がゆっくりと振り向いてきた。
高級なソファーに座り続け、私は泣きながら幸治君に言う。



綺麗で正しい姿なんて1度も見せたことなんてないから。
だから見せられる。
私は幸治君にならどんな姿でも見せられる。



どんなに汚い姿でも見せられる。



「その借金、私が代わりに返すから。
だから1時間だけ幸治君の時間を買わせて。
幸治君は何もしなくていいから・・・。
目を閉じて動かないでいてくれるだけでいいから。」



そんな汚い姿を見せながら、私はゆっくりと立ち上がった。



「幸治君と“いけないコト”をしても、私が幸治のことを異性として好きになることは絶対にないから。
私は幸治君よりも7歳も8歳も年上だし、生粋のお嬢様だし、こんなことまで言う気持ち悪い31歳の女だし。」



31歳にもなった私が、23歳の男の子に泣きながら必死にこんなことを言う。



“いけないコト”どころか、こんなに気持ち悪いコトを言う。



幸治君には見せられる。



だって、もっともっと汚い私の姿を幸治君は何度も見てきた。



だから見せられる。



どんな私でも見せられる。



「最後まではしないから。
少しだけでいいから触れてみたい。
私、幸治君に少しだけ触れるっていう“いけないコト”をしたい。
付き合って・・・お願い、幸治君・・・。」



流れる涙をタオルハンカチで拭うことなく、右手で持ったタオルハンカチを自分の唇にゆっくりとつけた。



幸治君が手に取り、私に渡してくれたタオルハンカチを。
幸治君がほんの少し触れていたタオルハンカチと自分の唇をくっつけた。



たったそれだけで・・・



私の身体の1番“いけないトコロ”がキュ──────ッとなった。
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