お嬢様は“いけないコト”がしたい
それから2人で他愛もない話をした。
お互いに強く強く抱き締め合いながら。
お互いに顔を見ることはなく、“中華料理屋 安部”でしていたような話を沢山した。
「タクシーまで呼んでくれてありがとう。
今日は凄く楽しかった。」
幸治君が住む高級マンションの部屋の玄関、そこでヒールの靴を履き幸治君に向き合いお礼を伝えた。
夜12時、私の31歳の誕生日の日は終わった。
静かな笑顔で私に笑い掛けながら頷く幸治君を見上げる。
幸治君からプレゼントして貰ったタオルハンカチを右手に持ち、それを唇にソッとつけた。
「幸せになってね、幸治君。」
幸治君は小さく頷き、それから困った顔で笑った。
「羽鳥さんは大丈夫ですかね・・・。
俺とあんな“いけないコト”をして、羽鳥さんの身体を汚しちゃった感じにしちゃいましたけど。」
「もう汚れても何でもいいんだよ、私の身体なんて。」
タオルハンカチを唇から離し、玄関の扉の取っ手に手を掛けた。
「うちの財閥は大きく変わった。
トップが“元気”になるから、うちの財閥も元気になった。
もう財閥の血や財閥の人間なんて関係ない、出来る人間が上に立つだけ。」
扉をゆっくりと開けると、幸治君の住む部屋の向こう側から夏の重い空気が入ってきた。
でも、不快には感じない。
31歳の誕生日の夜、初めてこんなに“いけないコト”をして、私もやっと変われる気がした。
“小関一美”の過去をちゃんと持ちながら、“羽鳥一美”として32歳からの人生を自分の為に生きていける気がした。
そう思いながら、幸治君に振り向きながら言う。
「1年前からうちの財閥は大きく変わって、分家の女が綺麗で正しく生きることをもう求めていない。
それでも私が勝手に綺麗で正しく生き続けてしまっていただけ。
だって、それ以外の生き方を私は知らなかったから。」
揺れる瞳で私のことを見詰め始めた幸治君に笑い掛けながら、一歩を踏み出した。
幸治君の住む部屋から、一歩を。
「私と“いけないコト”をしてくれてありがとう。
32歳になった今日からは、1人で少しずつ“いけないコト”をして楽しく生きていく。
財閥の本家の為じゃなく自分の為に生きて、ちゃんと幸せになるね。」
心からそう思いながら、自分に言い聞かせながら、幸治君にそう言った。
「じゃあ、行ってくるね。」
何も言ってくれない幸治君に最後に笑い掛け、私は幸治君の住む部屋から歩きだした。
幸治君からプレゼントして貰ったタオルハンカチを強く強く、痛いくらいに強く握り締めながら。
お互いに強く強く抱き締め合いながら。
お互いに顔を見ることはなく、“中華料理屋 安部”でしていたような話を沢山した。
「タクシーまで呼んでくれてありがとう。
今日は凄く楽しかった。」
幸治君が住む高級マンションの部屋の玄関、そこでヒールの靴を履き幸治君に向き合いお礼を伝えた。
夜12時、私の31歳の誕生日の日は終わった。
静かな笑顔で私に笑い掛けながら頷く幸治君を見上げる。
幸治君からプレゼントして貰ったタオルハンカチを右手に持ち、それを唇にソッとつけた。
「幸せになってね、幸治君。」
幸治君は小さく頷き、それから困った顔で笑った。
「羽鳥さんは大丈夫ですかね・・・。
俺とあんな“いけないコト”をして、羽鳥さんの身体を汚しちゃった感じにしちゃいましたけど。」
「もう汚れても何でもいいんだよ、私の身体なんて。」
タオルハンカチを唇から離し、玄関の扉の取っ手に手を掛けた。
「うちの財閥は大きく変わった。
トップが“元気”になるから、うちの財閥も元気になった。
もう財閥の血や財閥の人間なんて関係ない、出来る人間が上に立つだけ。」
扉をゆっくりと開けると、幸治君の住む部屋の向こう側から夏の重い空気が入ってきた。
でも、不快には感じない。
31歳の誕生日の夜、初めてこんなに“いけないコト”をして、私もやっと変われる気がした。
“小関一美”の過去をちゃんと持ちながら、“羽鳥一美”として32歳からの人生を自分の為に生きていける気がした。
そう思いながら、幸治君に振り向きながら言う。
「1年前からうちの財閥は大きく変わって、分家の女が綺麗で正しく生きることをもう求めていない。
それでも私が勝手に綺麗で正しく生き続けてしまっていただけ。
だって、それ以外の生き方を私は知らなかったから。」
揺れる瞳で私のことを見詰め始めた幸治君に笑い掛けながら、一歩を踏み出した。
幸治君の住む部屋から、一歩を。
「私と“いけないコト”をしてくれてありがとう。
32歳になった今日からは、1人で少しずつ“いけないコト”をして楽しく生きていく。
財閥の本家の為じゃなく自分の為に生きて、ちゃんと幸せになるね。」
心からそう思いながら、自分に言い聞かせながら、幸治君にそう言った。
「じゃあ、行ってくるね。」
何も言ってくれない幸治君に最後に笑い掛け、私は幸治君の住む部屋から歩きだした。
幸治君からプレゼントして貰ったタオルハンカチを強く強く、痛いくらいに強く握り締めながら。