お嬢様は“いけないコト”がしたい
冷たい烏龍茶を一口だけ口に含むと、少し楽になったような気がした。
それから改めて店内をよく見てみる。
テレビやネットの情報で知ってはいたけれど、私はこういうお店に入るのは初めてだった。
私が注いだ烏龍茶を恐る恐る口に含んだお母さんは、グラスを置いてから小さく笑った。
「良い機会になったかもね。
今日からはお母さんも一美もただの“羽鳥”になる。
お母さんは1度嫁に出た娘だから実家にも戻れない。
今日からはただの“羽鳥”として2人で暮らしていこう。」
お母さんがそんなことを言ってくる。
冷たい烏龍茶を飲み少しだけ楽になっていた所で、またそんなことを言ってくる。
それには思わず言葉を出したくなり、私はまたいつものように飲み込む。
お父さんとお母さんの言葉の通りに生きていくのが“私”だった。
物心がついた頃からそうやって育てられてきた。
それが綺麗で正しいことなのだと育てられてきた。
たまに思わず言葉を出したくなる時もあるけれど、そんな時は言葉を飲み込めばすぐにこの胸へと戻っていった。
だからまた烏龍茶を口に含み烏龍茶と一緒に飲み込む。
「お父さんとお母さんからの、一美の24歳の誕生日プレゼント。」
飲み込んでいたのに、お母さんがそんなことを言ってくる。
またそんなことを言ってくる。
それにはまた烏龍茶のグラスを口に運んだら・・・
ポタ───────...と、今日の為に買ったワンピースに水滴が落ちた。
そういえばナプキンがないと思い周りを見渡すけれど、やっぱりなくて。
カウンターの向こう側にいる男の子を見ると、男の子は下を向き何かをしている様子だった。
男の子を眺めながらさっきのやり取りを思い出し少しだけ笑って、鞄の中からタオルハンカチを取り出す。
それから膝の上に広げる。
私の1番お気に入りのハンカチを広げる。
小学校1年生の時の誕生日にお父さんからプレゼントをして貰ったタオルハンカチ。
お母さんが持つタオルハンカチに憧れていて、誕生日プレゼントはこれがいいとお願いしていた。
お父さんからもお母さんからも「ハンカチなんていつでも買ってあげる」と言われたけれど、“欲しい物”と言われて思い付く物がソレだけだったからタオルハンカチにして貰った。
薄いピンク色のタオルハンカチ、その端に赤いプレゼントの箱とリボンがいくつか刺繍してあるハンカチ。
膝の上に広げた、今でも1番お気に入りのタオルハンカチを見下ろしながら“幸せだったな”と思った。
“あの時は幸せだったな”と。
“幸せな誕生日だったな”と。
そう思いながら、目の前に座るお母さんに呟いた。
すぐそこにいる男の子のことは少しだけ気になったけれど、凄く若い男の子。
若すぎるくらいの男の子。
だから少しだけしか気にならなかった。
小学校1年生の時にお父さんからプレゼントで貰ったタオルハンカチを握りながら、お母さんを見詰める。
“欲しい物”を聞かれ、自分が欲しい物をまだ素直に答えられていた頃の自分を思い出しながら。
「どんな理由だったとしても、私の為だとしても、お父さんとお母さんが離婚するなんて誕生日プレゼントは欲しくなかった。」
そう言った。
そう言ってしまった。
飲み込むことなんて出来ずに、そう言ってしまった。
それから改めて店内をよく見てみる。
テレビやネットの情報で知ってはいたけれど、私はこういうお店に入るのは初めてだった。
私が注いだ烏龍茶を恐る恐る口に含んだお母さんは、グラスを置いてから小さく笑った。
「良い機会になったかもね。
今日からはお母さんも一美もただの“羽鳥”になる。
お母さんは1度嫁に出た娘だから実家にも戻れない。
今日からはただの“羽鳥”として2人で暮らしていこう。」
お母さんがそんなことを言ってくる。
冷たい烏龍茶を飲み少しだけ楽になっていた所で、またそんなことを言ってくる。
それには思わず言葉を出したくなり、私はまたいつものように飲み込む。
お父さんとお母さんの言葉の通りに生きていくのが“私”だった。
物心がついた頃からそうやって育てられてきた。
それが綺麗で正しいことなのだと育てられてきた。
たまに思わず言葉を出したくなる時もあるけれど、そんな時は言葉を飲み込めばすぐにこの胸へと戻っていった。
だからまた烏龍茶を口に含み烏龍茶と一緒に飲み込む。
「お父さんとお母さんからの、一美の24歳の誕生日プレゼント。」
飲み込んでいたのに、お母さんがそんなことを言ってくる。
またそんなことを言ってくる。
それにはまた烏龍茶のグラスを口に運んだら・・・
ポタ───────...と、今日の為に買ったワンピースに水滴が落ちた。
そういえばナプキンがないと思い周りを見渡すけれど、やっぱりなくて。
カウンターの向こう側にいる男の子を見ると、男の子は下を向き何かをしている様子だった。
男の子を眺めながらさっきのやり取りを思い出し少しだけ笑って、鞄の中からタオルハンカチを取り出す。
それから膝の上に広げる。
私の1番お気に入りのハンカチを広げる。
小学校1年生の時の誕生日にお父さんからプレゼントをして貰ったタオルハンカチ。
お母さんが持つタオルハンカチに憧れていて、誕生日プレゼントはこれがいいとお願いしていた。
お父さんからもお母さんからも「ハンカチなんていつでも買ってあげる」と言われたけれど、“欲しい物”と言われて思い付く物がソレだけだったからタオルハンカチにして貰った。
薄いピンク色のタオルハンカチ、その端に赤いプレゼントの箱とリボンがいくつか刺繍してあるハンカチ。
膝の上に広げた、今でも1番お気に入りのタオルハンカチを見下ろしながら“幸せだったな”と思った。
“あの時は幸せだったな”と。
“幸せな誕生日だったな”と。
そう思いながら、目の前に座るお母さんに呟いた。
すぐそこにいる男の子のことは少しだけ気になったけれど、凄く若い男の子。
若すぎるくらいの男の子。
だから少しだけしか気にならなかった。
小学校1年生の時にお父さんからプレゼントで貰ったタオルハンカチを握りながら、お母さんを見詰める。
“欲しい物”を聞かれ、自分が欲しい物をまだ素直に答えられていた頃の自分を思い出しながら。
「どんな理由だったとしても、私の為だとしても、お父さんとお母さんが離婚するなんて誕生日プレゼントは欲しくなかった。」
そう言った。
そう言ってしまった。
飲み込むことなんて出来ずに、そう言ってしまった。