お嬢様は“いけないコト”がしたい
「うちも離婚していますし、更には再婚までしていて。
離婚した時も再婚した時も、親達は最初は綺麗事を俺達に言ってきました。」



男の子がマスク姿のまま続ける。



「父親は独立をすると言って会社を辞め、でも上手くいかず、酒やギャンブルに走りクソみたいな男になっていって。
でもたまに見せる姿はやっぱり“お父さん”で。
俺達はどんなにクソみたいな男でも“お父さん”のことを大好きという気持ちを変えられなくて。」



「うん・・・。」



自然と相槌を打ち、続きを促した。



「俺が中学に上がる前、両親から離婚をすると聞かされました。
俺含め下の2人のきょうだいも反対をして。
大喧嘩をしている姿は何度も見ていましたし、もしかしたら・・・とは思っていましたけど、実際に離婚と聞かされたのは凄くショックで。」



「うん・・・。」



「“こんな姿のお父さんとお母さんを子ども達に見せるのはお前達の為にならないから”とかいう理由を、俺達に言ってきて。」



「うん・・・。」



「はあ!?ってなりましたよね。
俺達のことを想うなら離婚なんてせずに家族を続けて、上手くいくように頑張れよ!!と。
俺達も協力するからと、そう連日何度もみんなで伝えて。」



「うん・・・。」



男の子は私の汚物を拭ったタオルをビニール袋に入れながら、少しだけ笑い声を出した。



「“俺達の為”なんていうのはただの言い訳で、実際は“子ども達がいるから自分は事業に専念出来なかった”っていうクソみたいな考えを持っていた父親のことを母親が本気で無理になったっていう理由でしたね。」



「そっか・・・。」



「再婚する時もそんな感じで。
“子ども達には父親も母親もいた方がいいから”、なんていう綺麗事をそれぞれの親達が自分の子ども達に言っていて。」



私の汚物を拭き取ったビニール袋をキツく結び、床に何かのスプレーをした後にまた新しいタオルで拭き始めた。



「でも実際は、昔同じホテルのレストランで働いていた時にお互いに想いを伝えられず、俺の母親が復職した所にその相手がいてお互いに結婚したいからっていう理由でした。」



「そっか・・・。」



「でも、俺達子どもからしてみたらそんな理由だけに感じましたけど、親からしてみたら“こんな父親は子ども達の為にならない”と本気で思っていたでしょうし、“子どもの為にはお父さんもお母さんもいた方がいい”と本気で思っていたとも分かりますけどね。」



「うん・・・。」



「でも、俺達子どもからするとどっちも親のエゴの押し付けでした。
クソみたいな父親でしたけど俺達はどうしても父親のことを嫌いにはなれなかったし、やっぱり離婚をして欲しくなかったです。
それに再婚もして欲しくもなかったですね。
俺達からしてみたら知らないオジサンと知らない子ども3人が加わって、それで8人で家族にならないといけないなんて普通に無理ですよね。」



「そうだね・・・。」



「でも、うちは何でも言える親でもありましたし、親も結構何でも言っちゃう親でもあって。
綺麗事しか言わない親に連日当たり散らしていたら、本当のことを教えてくれて。
その本当のことの方が俺達子どもには響きますよね、だって親にとっての本当のことなので。」



「うん・・・。」



「聞いたからには、知ってしまったからには、俺達はもう何も言えなくなりました。
何も言えませんよね、母親が本気で無理ってなっているのに“頑張れ”なんて言えませんし、母親が本気で結婚したいと思っているのに“無理”なんて言えません。」



最後にエプロンを外し手袋も外し、それをまた新しいビニール袋に入れ、キツく結んだ。



「子どもからしてみると親のエゴを押し付けられてばっかりですよね。
めっっちゃ嫌になっちゃいますけど、きっと俺が親になっても自分の子どもによかれと思ってエゴを押し付けるんだと思います。
親ってそういうものなんでしょうね。
・・・そもそも、親が“良い”と思うことと子ども達が思う“良い”ことも違いますし。」



私の汚物を処理した男の子がゆっくりと立ち上がる。



そしたら夏の空気を感じて・・・



それによりこのお店の扉が開かれているのにやっと気付いた。



男の子はマスクを取りお母さんの方を向いた。



「娘さん、実際に吐くまでこんなにさらけ出しましたけど、お母さんも吐きます?
今がその機会なんじゃないですか?」



男の子がそう言って・・・



そう言ってくれて・・・。



私はお母さんに視線を移した。



お母さんは呆然とした顔で男の子の顔を見ていて、それからゆっくりと私のことを見下ろし・・・



「お母さんは・・・お父さんと離婚なんてしたくなかった・・・っ」



そう言った。
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