お嬢様は“いけないコト”がしたい
お母さんからその言葉を聞き、その言葉を聞くことが出来、私は泣きながら何度も頷く。



「一美。」



お母さんが真剣な顔になり、私と視線を合わせながら口を開く。



「うちの財閥は崩壊する。」



「・・・そうかもね。」



「女の子の一美に不必要な苦労は掛けたくない。
お父さんもお母さんも一美には幸せになって貰いたい。
一美が幸せになる姿を見たい。
これがお父さんとお母さんの本当のコト。
財閥なんて一美の幸せのことを考えたら・・・“クソ”みたいな存在でしかない。」



お母さんから“クソ”なんていう言葉が出て来て驚いていると、お母さんはハツラツとした顔で笑った。



「そう思っていたけど、一美の本当のコトが聞けてビックリした。
男の一平なら分かるけど、女の子の一美がそこまで分家の女として生きようとしていたのには気付かなかった。
てっきり、こんな人生なんていらなかったと思っていると思ってた。
私が・・・お母さんがそういうタイプのお嬢様だったから。」



お母さんが照れたように笑った。



「でもお父さんとお見合いをして、そしたらあまりにも不器用な人で。
女の私の方が上手く出来るくらいに不器用な人で。
さっき行った、お父さんとの初めてのデートでのレストラン、あそこで色々とやらかしちゃうくらいに不器用な人。
でも何だかそれが凄く面白くて、凄く楽しくて。
綺麗にエスコートをして綺麗にデートをしてくれるより、お母さんにとってはそんな時間が凄く楽しくて。」



「うん、分かるよ。
お父さんってそういうタイプだよね。」



「そうよね・・・だから今回も不器用すぎよね・・・。
お母さんと一美の幸せの為にこんな選択をすることしか出来ないなんて、お父さんって本当に不器用・・・。」



お母さんの言葉に私は何度も頷く。



「一美・・・。
“小関一美”の過去を持って、“羽鳥一美”の人生を今日から生きていって。
一美が財閥の分家の女であることには変わりはない。
でも、ただの“羽鳥”ではなく“羽鳥一美”として生きていけばいい。
“小関一美”の過去を持つ“羽鳥一美”として。」



お母さんがそう言って、私の頬をソッと撫でた。



「一美が好きなように生きていけばいい。
“羽鳥一美”は分家の女としても生きられるし、普通の女としても生きることが出来る。」



「私は・・・分家の女として生きたい・・・。
“羽鳥一美”になっても、私は分家の女として生きる。」



「うん、分かった。
でも貰ってくれる?
親のエゴっていう誕生日プレゼントを。」



「変な誕生日プレゼント・・・。」



「うん、お母さんからはもう誕生日プレゼントを渡さない。
だから欲しい物があったら、その時はお母さんに教えて?
そしたらお母さんが何でもプレゼントをする。
お母さんが自分で働いたお金で、ちゃんとプレゼントをする。」



お母さんがそう言ってくれ・・・



それにも泣きながら頷いた。



2人で泣きながら頷き合った。



そしたら・・・



「まずは高いハンカチじゃなくて安くて気軽に使えるハンカチをプレゼントして貰った方がいいっすよ!!」



男の子が大きく笑いながらそんなことを言ってくるので、私もお母さんも笑ってしまった。
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