お嬢様は“いけないコト”がしたい
オフィスビルもあるけれどレストランや複合施設、ブランド店などが建ち並ぶ街を幸治君と並んで歩く。



あれから電車で2人とも何も喋らず乗っていた。
電車の揺れと幸治君の熱い身体、匂い、ガッシリとした筋肉がついている身体を感じながら、私は電車に乗っていた。



凄く凄くドキドキとしながら・・・。



“このまま目的地に着かなければいいのに”と、なんでかそんな考えが浮かびながら。



そう思っているからか、私の足は全然前へと進んでいかない。
“足ってこんなに重かったっけ”と思った。



“進みたくない”と思った。



“私は目的地に進みたくない”と思った。



「行きたくないな・・・。」



口からそんな言葉を吐き出し立ち止まる。
幸治君は不思議そうな顔で私のことを見下ろし、一緒に立ち止まってくれた。



そんな幸治君を見上げる。



今は私と一緒にいて、今は私に付き合ってくれている幸治君を見上げる。



「私、目的地に行きたくない・・・。
このまま止まってたい・・・。」



そしたらずっと幸治君と一緒にいられる気がした。
“ずっと幸治君と一緒にいたい”と思った。
そんなことを思ってはいけないのに、“私はずっと幸治君と一緒にいたい”と思ってしまった。



なんでか分からないけれど、そんな風に思ってしまう。



私よりも7歳も8歳も若い男の子を、31歳になったオバサンが独占したいと思ってしまう。



そんな自分に気付いてしまい涙が流れそうになった。



嗚咽が漏れそうになった。



鼻水を垂らしそうになった。



“何か”を吐き出しそうになった。



そうなった、その時・・・



幸治君が私の右手をソッと握ってきた。



そして優しい顔で私のことを見下ろす。



「俺が付き合うので大丈夫です。」



幸治君がそう言って・・・



「羽鳥さんの“いけないなコト”に俺が一緒に付き合います。
羽鳥さんがしたいと思う“いけないなコト”に俺が最後まで付き合いますから。」



そんなことを言ってくれる。



私の右手を引きながら、そんなことを言ってくれる。



「お嬢様が着てはダメなラフな服を買いに行くんですよね?
それを着て色んな所に遊びに行くのにも付き合いますから。
高くて綺麗な服と高いヒールの靴では行けないような所に一緒に遊びに行きましょう。」



そう言われ、幸治君のさっきの言葉も私の洋服を買いに行く為の言葉なのだと分かった。
それが分かったけれど、私は頷いた。



さっきの言葉が“嬉しい”と思いながら。



でも、“苦しい”とも思いながら。



「最後まで付き合ってね。」



“最後”が何処なのか、“最後”が何時なのか、“最後”が何なのか、いつか終わりを迎える“最後”の時を考えながら・・・



幸治君に右手を繋いで貰いながらまた歩き始めた。



ゆっくりだけど、歩き始めた。



幸治君が高校3年生、高校を卒業する数日前の、私が25歳の時に“最後”を迎えた時のことを思い出しながら、歩き始めた。



“好きになってはいけない”と思いながら。



“幸治君のことを異性として好きになっては絶対にいけない”と思いながら。



そしたら終わってしまう。



異性として好きになったら終わってしまう。



“その時”か“最後”になる。



“まだ終わらせたくない”と、“まだ幸治君と一緒にいたい”と・・・



“まだまだ幸治君と一緒にいたい”と・・・



なんでかそう強く思いながら、繋がれている幸治君の手を少し強く握った。
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