お嬢様は“いけないコト”がしたい
数分後
幸治君から貰った飲み物をゆっくりと飲みながら、幸治君と他愛もない話を沢山しながら宛もなく街を歩いた。
そして、飲み物を全部飲み終わり・・・
夕陽が沈む色から夜の色に空が移り変わっていくのを見上げながら、私は言った。
「「お腹空いた。」」
吐き出した私の言葉は幸治君と重なり、これには面白くて幸治君を見上げた。
そしたら幸治君も私を見下ろしていて。
身体を寄せ合い、顔も寄せ合い、2人で笑い合った。
「羽鳥さん、何系食べたいですか?」
「凄くお腹が空いてるから何でも美味しく感じられそう。」
「じゃあ、消去法で。
俺はパン系は違いますね。」
「それは私も。」
「洋食もちょっと違います。
米をガッツリ食べたいです、めちゃくちゃお腹空いてます。」
幸治君はそう言った後、パッと顔を輝かせた。
「俺、行ってみたい店があって。
お客さんから教えて貰った店なんですけど、煩くて面倒でヤバい人は食べられない料理なのでいつも却下されていて。
とんかつ、大丈夫ですか?」
「うん、行きたい!
とんかつは久しぶりに食べる!」
「電車で少し移動しますけど・・・。」
私の足元に視線を移した幸治君が心配そうな顔になった。
「ずっと歩きっぱなしですけど、足大丈夫ですか?」
「うん、ヒールの靴で歩くのは慣れてるから。」
「スニーカーも欲しいって言ってましたよね。」
「うん、とんかつを食べた後に靴屋さんにも行きたい!」
「はい、付き合います。」
幸治君が嬉しそうに笑って頷いた。
その顔を見て私は素直に吐き出す。
「とんかつのお店を教えてくれたお客さんって、咲希ちゃんがすすめてくれたお店の女の子達?」
「いや、あの人達じゃないです。
女の人が行くようなお店じゃないですし。」
「幸治君って嘘つき。
女の子、あんなに沢山いるのに。」
「あんなに沢山って?」
「みんな幸治君のことを狙ってそうだったよ?」
「それはない。
みんな俺の職場のトップの人に言い寄ってるので。
俺のことはからかって楽しんでるだけですよ。」
さっきの光景を思い出し、その言葉を聞いてもなんでか“苦しい”と思う。
「羽鳥さんだって俺のことをからかって楽しんでたじゃないですか。
みんなそんな感じです。」
そう言われ・・・
「それならみんな幸治君のことが好きってことでしょ?」
なんでかこんなに“苦しい”と思いながら幸治君を見上げる。
「私は“中華料理屋 安部”のことが大好きだったもん。」
“苦しい”と思いながら吐き出した言葉に、幸治君の瞳は大きく揺れた。
それから嬉しそうな顔で私を見下ろして。
「“中華料理屋 安部”のことをあんなに好きでいてくれたのは羽鳥さんだけですよ。
あの煩くて面倒でヤバい人より、羽鳥さんは“中華料理屋 安部”を好きでいてくれたので。」
「・・・その人も常連さんだったの?」
「そうですね。
それで俺を“中華料理屋 安部”から連れ出してくれました。」
「・・・でも、その人よりも私の方が“中華料理屋 安部”のことが絶対に好きだったよ?
“中華料理屋 安部”のこともちゃんと考えてたよ?
だから私は独占なんてしなかった。」
幸治君が高校3年生、高校を卒業する数日前に私は“中華料理屋 安部”から離れた。
幸治君が私のことを異性として好きなのだと分かったから。
その時のことを思い出すとなんでか泣きそうになり、慌てて下を向く。
そしたら、見えた。
まだ捨てていなかった幸治君から貰った飲み物、カップにささっているストローの先が。
幸治君が口をつけていたストローの先が。
それを見下ろしているとどんどん苦しくなってくる。
息が止まってしまうのではないかと思うくらい苦しくなってくる。
「でもそれは羽鳥さんのエゴの押し付けでした、俺からすると。」
幸治君から貰った飲み物をゆっくりと飲みながら、幸治君と他愛もない話を沢山しながら宛もなく街を歩いた。
そして、飲み物を全部飲み終わり・・・
夕陽が沈む色から夜の色に空が移り変わっていくのを見上げながら、私は言った。
「「お腹空いた。」」
吐き出した私の言葉は幸治君と重なり、これには面白くて幸治君を見上げた。
そしたら幸治君も私を見下ろしていて。
身体を寄せ合い、顔も寄せ合い、2人で笑い合った。
「羽鳥さん、何系食べたいですか?」
「凄くお腹が空いてるから何でも美味しく感じられそう。」
「じゃあ、消去法で。
俺はパン系は違いますね。」
「それは私も。」
「洋食もちょっと違います。
米をガッツリ食べたいです、めちゃくちゃお腹空いてます。」
幸治君はそう言った後、パッと顔を輝かせた。
「俺、行ってみたい店があって。
お客さんから教えて貰った店なんですけど、煩くて面倒でヤバい人は食べられない料理なのでいつも却下されていて。
とんかつ、大丈夫ですか?」
「うん、行きたい!
とんかつは久しぶりに食べる!」
「電車で少し移動しますけど・・・。」
私の足元に視線を移した幸治君が心配そうな顔になった。
「ずっと歩きっぱなしですけど、足大丈夫ですか?」
「うん、ヒールの靴で歩くのは慣れてるから。」
「スニーカーも欲しいって言ってましたよね。」
「うん、とんかつを食べた後に靴屋さんにも行きたい!」
「はい、付き合います。」
幸治君が嬉しそうに笑って頷いた。
その顔を見て私は素直に吐き出す。
「とんかつのお店を教えてくれたお客さんって、咲希ちゃんがすすめてくれたお店の女の子達?」
「いや、あの人達じゃないです。
女の人が行くようなお店じゃないですし。」
「幸治君って嘘つき。
女の子、あんなに沢山いるのに。」
「あんなに沢山って?」
「みんな幸治君のことを狙ってそうだったよ?」
「それはない。
みんな俺の職場のトップの人に言い寄ってるので。
俺のことはからかって楽しんでるだけですよ。」
さっきの光景を思い出し、その言葉を聞いてもなんでか“苦しい”と思う。
「羽鳥さんだって俺のことをからかって楽しんでたじゃないですか。
みんなそんな感じです。」
そう言われ・・・
「それならみんな幸治君のことが好きってことでしょ?」
なんでかこんなに“苦しい”と思いながら幸治君を見上げる。
「私は“中華料理屋 安部”のことが大好きだったもん。」
“苦しい”と思いながら吐き出した言葉に、幸治君の瞳は大きく揺れた。
それから嬉しそうな顔で私を見下ろして。
「“中華料理屋 安部”のことをあんなに好きでいてくれたのは羽鳥さんだけですよ。
あの煩くて面倒でヤバい人より、羽鳥さんは“中華料理屋 安部”を好きでいてくれたので。」
「・・・その人も常連さんだったの?」
「そうですね。
それで俺を“中華料理屋 安部”から連れ出してくれました。」
「・・・でも、その人よりも私の方が“中華料理屋 安部”のことが絶対に好きだったよ?
“中華料理屋 安部”のこともちゃんと考えてたよ?
だから私は独占なんてしなかった。」
幸治君が高校3年生、高校を卒業する数日前に私は“中華料理屋 安部”から離れた。
幸治君が私のことを異性として好きなのだと分かったから。
その時のことを思い出すとなんでか泣きそうになり、慌てて下を向く。
そしたら、見えた。
まだ捨てていなかった幸治君から貰った飲み物、カップにささっているストローの先が。
幸治君が口をつけていたストローの先が。
それを見下ろしているとどんどん苦しくなってくる。
息が止まってしまうのではないかと思うくらい苦しくなってくる。
「でもそれは羽鳥さんのエゴの押し付けでした、俺からすると。」