お嬢様は“いけないコト”がしたい
幸治君のその言葉には驚き、顔を上げた。
「羽鳥さんが俺のことも考えて“中華料理屋 安部”を終わりにしたんだろうなとは分かっていました。
分かっていましたけど・・・」
幸治君は下を向き、私の両手から抜き取った私の飲み物を見下ろしている。
「俺は羽鳥さんと会いたかったです。
“中華料理屋 安部”が羽鳥さんとどうにかなれるなんて本気で思ってたわけないじゃないですか。
たまに想像して・・・1人で“いけないコト”をしていただけです。
たまに夢に見ていただけです。」
苦しそうな顔で幸治君が続ける。
「“中華料理屋 安部”の俺が羽鳥さんと会えるのはあの場所だけだったのに。
俺はあの場所で毎週末羽鳥さんが現れてくれるのを待つだけしか出来ないただの男子高校生で・・・。
いや、“ただの男子高校生”でもないですね。
俺は“普通”以下の男子高校生だったので。」
「そんなことないよ・・・。」
「そんなことありますよ。
俺は羽鳥さんにラーメン1杯ご馳走することも、羽鳥さんにハンカチ1枚買うことも出来ませんでした。
あんなハンカチ高すぎて、“中華料理屋 安部”には買えるような値段ではなかったです。」
小さく笑いながら、下を向きながら、幸治君が吐き出していく。
「俺が羽鳥さんのことを女の人として好きだって分かっていても、俺が羽鳥さんの“いけないコト”をする相手になりたいと思っていると分かっていても、離れていかないで欲しかったです。
ずっと我慢出来ました、俺。
羽鳥さんと会えるなら俺はどんな我慢でもするつもりでした。」
そう言いながらも幸治君は苦しそうな顔をしている。
その横顔は凄く凄く苦しそうで・・・。
「羽鳥さんが他の男と婚約しても結婚しても、その男との子どもを産んでも。
俺はずっと我慢していくつもりでした。
それで羽鳥さんが“中華料理屋 安部”に来てくれるなら、俺はどんな我慢もしていくつもりでした。」
「幸治君・・・。」
「でも・・・俺が悪いんですけどね。
全部、俺が悪いんですけどね。」
その言葉を聞き、私は首を横に振る。
でも下を向いている幸治君には見えていない。
それが分かり、私は幸治君の左手を少しだけ握った。
「“中華料理屋 安部”に行くのを終わりにしたのは、私のエゴの押し付けだけじゃないよ。」
私の言葉で幸治君がやっと少し顔を上げた。
そんな幸治君の顔を見上げながら私は吐き出す。
「私はお嬢様だからね?
政略結婚もあり得るお嬢様。
それもあの時、うちの財閥は危ない状態で。
だから政略結婚は可能性として低くないと思ってた。」
幸治君の大きくて熱い左手を少し強く握り、吐き出す。
「幸治君の気持ちを知って、“いけないコト”をしてしまいそうな私がいた。
高校生の男の子、それも財閥とは何の関係もない家の男の子に、7歳も年上のお嬢様は“いけないコト”をしてしまいそうだった。」
「羽鳥さんが俺のことも考えて“中華料理屋 安部”を終わりにしたんだろうなとは分かっていました。
分かっていましたけど・・・」
幸治君は下を向き、私の両手から抜き取った私の飲み物を見下ろしている。
「俺は羽鳥さんと会いたかったです。
“中華料理屋 安部”が羽鳥さんとどうにかなれるなんて本気で思ってたわけないじゃないですか。
たまに想像して・・・1人で“いけないコト”をしていただけです。
たまに夢に見ていただけです。」
苦しそうな顔で幸治君が続ける。
「“中華料理屋 安部”の俺が羽鳥さんと会えるのはあの場所だけだったのに。
俺はあの場所で毎週末羽鳥さんが現れてくれるのを待つだけしか出来ないただの男子高校生で・・・。
いや、“ただの男子高校生”でもないですね。
俺は“普通”以下の男子高校生だったので。」
「そんなことないよ・・・。」
「そんなことありますよ。
俺は羽鳥さんにラーメン1杯ご馳走することも、羽鳥さんにハンカチ1枚買うことも出来ませんでした。
あんなハンカチ高すぎて、“中華料理屋 安部”には買えるような値段ではなかったです。」
小さく笑いながら、下を向きながら、幸治君が吐き出していく。
「俺が羽鳥さんのことを女の人として好きだって分かっていても、俺が羽鳥さんの“いけないコト”をする相手になりたいと思っていると分かっていても、離れていかないで欲しかったです。
ずっと我慢出来ました、俺。
羽鳥さんと会えるなら俺はどんな我慢でもするつもりでした。」
そう言いながらも幸治君は苦しそうな顔をしている。
その横顔は凄く凄く苦しそうで・・・。
「羽鳥さんが他の男と婚約しても結婚しても、その男との子どもを産んでも。
俺はずっと我慢していくつもりでした。
それで羽鳥さんが“中華料理屋 安部”に来てくれるなら、俺はどんな我慢もしていくつもりでした。」
「幸治君・・・。」
「でも・・・俺が悪いんですけどね。
全部、俺が悪いんですけどね。」
その言葉を聞き、私は首を横に振る。
でも下を向いている幸治君には見えていない。
それが分かり、私は幸治君の左手を少しだけ握った。
「“中華料理屋 安部”に行くのを終わりにしたのは、私のエゴの押し付けだけじゃないよ。」
私の言葉で幸治君がやっと少し顔を上げた。
そんな幸治君の顔を見上げながら私は吐き出す。
「私はお嬢様だからね?
政略結婚もあり得るお嬢様。
それもあの時、うちの財閥は危ない状態で。
だから政略結婚は可能性として低くないと思ってた。」
幸治君の大きくて熱い左手を少し強く握り、吐き出す。
「幸治君の気持ちを知って、“いけないコト”をしてしまいそうな私がいた。
高校生の男の子、それも財閥とは何の関係もない家の男の子に、7歳も年上のお嬢様は“いけないコト”をしてしまいそうだった。」