お嬢様は“いけないコト”がしたい
結局部屋着に着替えることも出来ないままベッドに横になり、スマホを手に持った。
そして無意識にお母さんに電話を掛けそうになった。
31歳になって家を出た娘が、たった数日でお腹が痛いという理由でお母さんに電話を掛けることろだった。
お母さんだけではなく、お父さんにも。
“いけないコト”とかそういうことではなく、31歳にもなってまだお母さんとお父さんをこんなに必要としている自分が、“いつまで経っても子どもっぽくてダメだ”と思い電話をすることを我慢した。
我慢したけれど・・・
1人で“家”の中にいると、どんどんお腹が痛くなってくる。
どんどん不安になってくる。
どんどん怖くなってくる。
どんどん苦しくなってくる。
実際の胸やお腹だけではなく、この胸の気持ちまで苦しくなってくる。
「う~・・・ん・・・・・・うーん・・・」
両手でお腹を押さえることしか出来ず、我慢出来ない唸り声を上げながら、冷房をつけたばかりの暑い部屋の中で冷や汗を流しながら苦しんでいた。
随分と長い時間苦しんでいたような気がする。
そう思いながらスマホを見てみるとまだ10分も経っていなくて・・・
「幸治君・・・。」
お母さんとお父さんの他に無意識に出てきた名前は幸治君の名前。
こんな状況の中でお母さんとお父さんの次に思い浮かんだ人は、幸治君だった。
それはそうで・・・。
それはそのはずで・・・。
幸治君は私と会わなくなってから私のことを考えてくれていたと言っていたけれど、私だって幸治君のことを考えていた。
“幸せになっていればいいな”と、私だって考えていた。
そう思いながら、私の足は無意識に“中華料理屋 安部”に向かっていた。
何度も何度も向かっていた。
ずっとずっと会いたかった。
ずっとずっと会いたくて・・・
“最後”にと思って、約2年前に私は“中華料理屋 安部”に行った。
そしたら、いた。
幸治君が昔のように、いた。
二十歳の時に“中華料理屋 安部”を辞めたという幸治君。
21歳になった直後の幸治君に私はお店にアポを取ってから会いに行った。
そして当日、“中華料理屋 安部”を辞めていたというのに幸治君は昔のようにカウンターの向こう側にいて、昔のように私に醤油ラーメンを出してくれた。
1杯ではなく2杯、出してくれた。
私は1人ではなかったから。
私は男の人と2人で“中華料理屋 安部”に行っていた。
幸治君に会いたくて・・・。
そして、あんなに頑張っている幸治君の為に私に出来ることをしたいと思って・・・。
そう思って、私は約2年前の3月末日、“中華料理屋 安部”に行っていた。
昔と変わらず“中華料理屋 安部”のティーシャツを着ていた幸治君。
昔と変わらず眩しいくらいの若さを持つ笑顔で私に笑い掛けてくれた。
「あの時は、もう私のことは好きじゃなかったのかな・・・。」
私のことを“ずっと待っている”と言っていたのに・・・。
高校3年生、高校を卒業する数日前の幸治君は“中華料理屋 安部”で私のことをずっと待っていると言ってくれたのに。
“中華料理屋 安部”を辞め“普通”の仕事をしているという、大人の男の人になった幸治君の姿がずっと思い浮かんでいる。
「幸治君・・・。」
なんでかマイナスなことばかりが浮かんできて、もう1度幸治君の名前を無意識に呼んだ時・・・
コンコン─────────...と、部屋の扉がノックされた。
「は~い・・・。」
私が返事をした数秒後に扉が恐る恐るという感じで開き、そこから心配そうな顔をしている幸治君が現れた。
いつも私から開けていた“中華料理屋 安部”の扉。
でも今初めて、私が待つ部屋の扉を幸治君から開けてくれた。
そして無意識にお母さんに電話を掛けそうになった。
31歳になって家を出た娘が、たった数日でお腹が痛いという理由でお母さんに電話を掛けることろだった。
お母さんだけではなく、お父さんにも。
“いけないコト”とかそういうことではなく、31歳にもなってまだお母さんとお父さんをこんなに必要としている自分が、“いつまで経っても子どもっぽくてダメだ”と思い電話をすることを我慢した。
我慢したけれど・・・
1人で“家”の中にいると、どんどんお腹が痛くなってくる。
どんどん不安になってくる。
どんどん怖くなってくる。
どんどん苦しくなってくる。
実際の胸やお腹だけではなく、この胸の気持ちまで苦しくなってくる。
「う~・・・ん・・・・・・うーん・・・」
両手でお腹を押さえることしか出来ず、我慢出来ない唸り声を上げながら、冷房をつけたばかりの暑い部屋の中で冷や汗を流しながら苦しんでいた。
随分と長い時間苦しんでいたような気がする。
そう思いながらスマホを見てみるとまだ10分も経っていなくて・・・
「幸治君・・・。」
お母さんとお父さんの他に無意識に出てきた名前は幸治君の名前。
こんな状況の中でお母さんとお父さんの次に思い浮かんだ人は、幸治君だった。
それはそうで・・・。
それはそのはずで・・・。
幸治君は私と会わなくなってから私のことを考えてくれていたと言っていたけれど、私だって幸治君のことを考えていた。
“幸せになっていればいいな”と、私だって考えていた。
そう思いながら、私の足は無意識に“中華料理屋 安部”に向かっていた。
何度も何度も向かっていた。
ずっとずっと会いたかった。
ずっとずっと会いたくて・・・
“最後”にと思って、約2年前に私は“中華料理屋 安部”に行った。
そしたら、いた。
幸治君が昔のように、いた。
二十歳の時に“中華料理屋 安部”を辞めたという幸治君。
21歳になった直後の幸治君に私はお店にアポを取ってから会いに行った。
そして当日、“中華料理屋 安部”を辞めていたというのに幸治君は昔のようにカウンターの向こう側にいて、昔のように私に醤油ラーメンを出してくれた。
1杯ではなく2杯、出してくれた。
私は1人ではなかったから。
私は男の人と2人で“中華料理屋 安部”に行っていた。
幸治君に会いたくて・・・。
そして、あんなに頑張っている幸治君の為に私に出来ることをしたいと思って・・・。
そう思って、私は約2年前の3月末日、“中華料理屋 安部”に行っていた。
昔と変わらず“中華料理屋 安部”のティーシャツを着ていた幸治君。
昔と変わらず眩しいくらいの若さを持つ笑顔で私に笑い掛けてくれた。
「あの時は、もう私のことは好きじゃなかったのかな・・・。」
私のことを“ずっと待っている”と言っていたのに・・・。
高校3年生、高校を卒業する数日前の幸治君は“中華料理屋 安部”で私のことをずっと待っていると言ってくれたのに。
“中華料理屋 安部”を辞め“普通”の仕事をしているという、大人の男の人になった幸治君の姿がずっと思い浮かんでいる。
「幸治君・・・。」
なんでかマイナスなことばかりが浮かんできて、もう1度幸治君の名前を無意識に呼んだ時・・・
コンコン─────────...と、部屋の扉がノックされた。
「は~い・・・。」
私が返事をした数秒後に扉が恐る恐るという感じで開き、そこから心配そうな顔をしている幸治君が現れた。
いつも私から開けていた“中華料理屋 安部”の扉。
でも今初めて、私が待つ部屋の扉を幸治君から開けてくれた。