お嬢様は“いけないコト”がしたい
“中華料理屋 安部”の扉に手を掛ける。
この引戸を引く為、昔のように手を掛ける。
昔は“嬉しい”と思いながら開けていた扉。
でもこの扉を開けることが今は“苦しい”と思う。
“中華料理屋 安部”での“最後”になった日のことを思い出し、苦しくなってきた。
凄く凄く苦しくなってきた。
「俺が開けましょうか?」
一夜さんがその目を鋭くさせながら聞いてくるので、私は首を横に振った。
「自分で開けます。
ここが私の冒険の最後の場所。
この場所に来る為に、この日の為に、あの物件を高く買う為に、私はほぼ不眠不休で永家不動産で冒険していました。」
「早く増田財閥に戻る為なのかと思っていたら、まさか最後の最後に翔子さんにこんなワガママを言う為にあんなに頑張っていたとは驚きました。
でもそういうの、翔子さんも俺も大好きだからな。」
鋭い目を輝かせながら一夜さんが笑っていて、お似合いの2人だなと思う。
そんな2人が上に立つ未来がある永家財閥を思いながら、増田財閥の未来の心配も浮かぶ・・・。
でもそれ以上に、幸治君の未来が少しでも良いものになればと思う・・・。
増田財閥の未来のことよりも、なんでか幸治君の未来のことをいつもいつも考えていた。
いつもいつもこんなにも考えていた。
昔は自分の未来と同じくらい考えていて、そして会えなくなってからは幸治君の未来ばかりを考えていた。
“幸せになってくれていたらいいな”と、そんな風になっている幸治君の姿ばかり想像して、夢に見て。
そして・・・
あの曲がり角から眺めていた“中華料理屋 安部”、そこからお客さんが出たり入ったりするのを見る度、幸治君がまだあの場所にいることが“嬉しい”と思った。
でも“苦しい”とも思った。
“こんなボロボロの中華屋の息子が女の子と仲良くなんて出来ませんから。
俺のことを好きになってくれた女の子が苦労するだけなので。
俺のことを好きになってくれた女の子が可哀想なだけなので。”
いつか聞いた幸治君の言葉。
ある常連さんがほぼ毎日のように言ってくるというそんな言葉を笑いながら言っていた幸治君。
そんなことを言っていた幸治君は私のことが女として好きだった。
そして、“ずっと待っている”と・・・。
“最後”の日、“最後”の時、幸治君は私にそう叫んだ。
この扉の所から。
私の背中に向かって叫んだ。
それに振り向くことなく私は歩いた。
振り向いてはいけないと思って歩いた。
幸治君の為に・・・
そして、私自身の為に・・・。
“あの日”のことを思い出しながら、私は“あの時”以来初めて、この扉を開けた。
静かな動作をするよう教育されていた私が勢いよく開けた。
そしたら・・・
扉から鈴のような音が聞こえてきた。
昔はなかったそんな音になんでか泣きそうになる。
幸治君がつけたんだろうなとすぐに分かったから。
私がこの扉を開けた時、すぐに気付けるように幸治君がつけたのだと分かった。
それが分かって、“なんでか”どころか“凄く”泣きたくなった。
凄く凄く、泣きたくなった。
そんな私に・・・
「いらっしゃいませ!!」
昔と変わらない、眩しいくらいの若さを持つ笑顔で、幸治君はカウンターの向こう側からそう言ってくれた。
この引戸を引く為、昔のように手を掛ける。
昔は“嬉しい”と思いながら開けていた扉。
でもこの扉を開けることが今は“苦しい”と思う。
“中華料理屋 安部”での“最後”になった日のことを思い出し、苦しくなってきた。
凄く凄く苦しくなってきた。
「俺が開けましょうか?」
一夜さんがその目を鋭くさせながら聞いてくるので、私は首を横に振った。
「自分で開けます。
ここが私の冒険の最後の場所。
この場所に来る為に、この日の為に、あの物件を高く買う為に、私はほぼ不眠不休で永家不動産で冒険していました。」
「早く増田財閥に戻る為なのかと思っていたら、まさか最後の最後に翔子さんにこんなワガママを言う為にあんなに頑張っていたとは驚きました。
でもそういうの、翔子さんも俺も大好きだからな。」
鋭い目を輝かせながら一夜さんが笑っていて、お似合いの2人だなと思う。
そんな2人が上に立つ未来がある永家財閥を思いながら、増田財閥の未来の心配も浮かぶ・・・。
でもそれ以上に、幸治君の未来が少しでも良いものになればと思う・・・。
増田財閥の未来のことよりも、なんでか幸治君の未来のことをいつもいつも考えていた。
いつもいつもこんなにも考えていた。
昔は自分の未来と同じくらい考えていて、そして会えなくなってからは幸治君の未来ばかりを考えていた。
“幸せになってくれていたらいいな”と、そんな風になっている幸治君の姿ばかり想像して、夢に見て。
そして・・・
あの曲がり角から眺めていた“中華料理屋 安部”、そこからお客さんが出たり入ったりするのを見る度、幸治君がまだあの場所にいることが“嬉しい”と思った。
でも“苦しい”とも思った。
“こんなボロボロの中華屋の息子が女の子と仲良くなんて出来ませんから。
俺のことを好きになってくれた女の子が苦労するだけなので。
俺のことを好きになってくれた女の子が可哀想なだけなので。”
いつか聞いた幸治君の言葉。
ある常連さんがほぼ毎日のように言ってくるというそんな言葉を笑いながら言っていた幸治君。
そんなことを言っていた幸治君は私のことが女として好きだった。
そして、“ずっと待っている”と・・・。
“最後”の日、“最後”の時、幸治君は私にそう叫んだ。
この扉の所から。
私の背中に向かって叫んだ。
それに振り向くことなく私は歩いた。
振り向いてはいけないと思って歩いた。
幸治君の為に・・・
そして、私自身の為に・・・。
“あの日”のことを思い出しながら、私は“あの時”以来初めて、この扉を開けた。
静かな動作をするよう教育されていた私が勢いよく開けた。
そしたら・・・
扉から鈴のような音が聞こえてきた。
昔はなかったそんな音になんでか泣きそうになる。
幸治君がつけたんだろうなとすぐに分かったから。
私がこの扉を開けた時、すぐに気付けるように幸治君がつけたのだと分かった。
それが分かって、“なんでか”どころか“凄く”泣きたくなった。
凄く凄く、泣きたくなった。
そんな私に・・・
「いらっしゃいませ!!」
昔と変わらない、眩しいくらいの若さを持つ笑顔で、幸治君はカウンターの向こう側からそう言ってくれた。