お嬢様は“いけないコト”がしたい
約4年ぶりに食べた幸治君の醤油ラーメンは美味しくて。
凄く凄く、凄く凄く、やっぱりこんなにも美味しくて。
どんな高級な料理よりもやっぱりこんなにも美味しい。



いつもそう思いながら食べていた幸治君の醤油ラーメン。
“今”も同じことを思いながら一気に食べていく。



幸治君の醤油ラーメンを食べるといつも何も言えなくなる。
この身体に早く入れたくなるから。
鼻から入る香り、口の中に入ろうとする瞬間の感覚、そして口の中に入った瞬間に一気に沸き上がる“美味しい”と思う感覚。



その感覚を噛み締めてから飲み込むと、この身体にしっかりと入っていく。



“何か”がこんなにも入っていく。



やっぱり“今”も、“何か”がこんなにも深く深く入っていく。



一気に食べたラーメン、それからレンゲでゆっくりとスープを何口か飲んだ。
昔と同じ食べ方を“今”もしていた時・・・



「この醤油ラーメン、何でこんなに低価格にしてるの?
他の料理はもう少し高い価格なのに、醤油ラーメンだけ異様に低価格に設定してるよね?」



一夜さんがそう言った。
ゆっくりとスープをもう一口だけ飲み一夜さんの方を見ると、一夜さんは醤油ラーメンを完食していた。



スープまでしっかりと完食している。



鋭い目でカウンターの向こう側に立つ幸治君を見上げていて、今日の目的とは別件の仕事を始めてしまいそうな一夜さんには苦笑いになる。



「うちの店はその醤油ラーメンで営めているので。
その醤油ラーメンが650円で食べられるからと来てくれているお客さんばかりなので、昔からのその値段の醤油ラーメンが値上がりしたらお客さんは確実に減りますね。
今よりも減ったらこの店を営んでいる意味がないことになりますので、値段は変えないことにしています。」



「・・・立地の問題もあるのか。
駅から結構離れているし、ホームページもSNSもやっていないみたいだしな。
やってみるつもりはないの?」



「俺はスマホも持っていないくらいでしたので、そういう系はやっていなくて。
でも今は弟と妹が準備をしている所です。」



幸治君のその言葉に私は店内を少しだけ見渡した。
ランチの時間も終わりお客さんが減る15時過ぎの店内を。



「この前お店に電話をして今日のアポを取った時、電話対応してくれた方って幸治君の弟さん?」



「そうですね。」



「お手伝いしてくれてるんだ?」



「手伝いというか、小遣いを稼ぐと張り切っていて。
奨学金は貰わず偏差値の高い大学にすぐ下の2人は入れられたので、小遣いは自分達で稼ぐとやけに張り切っていて。
ふざけてやられるよりは全然良いんですけど、めちゃくちゃ張り切ってもいるので大学での勉強が疎かにならないか心配でもありますね。」



「安部さん。」



幸治君が話し終わると、一夜さんが幸治君のことを呼んだ。



「この醤油ラーメン、もっと勝負出来るよ。」
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