お嬢様は“いけないコト”がしたい
それには内心物凄く驚いた。
でもそれは絶対に見せずに・・・いや、“普通”に驚いた顔をして幸治君のことを見詰めた。



そして大きな笑顔を見せ、幸治君に言う。



「よかった~!!
幸治君、常連さんのワガママを聞いてくれることもあるんだね!!」



「え、何ですか、急に。
俺に何かワガママを言いにきたんですか?」



「うん、ワガママを言いにきたの。
聞いてくれる?」



「・・・4年ぶりに会ってワガママですか。
変な壺なら買いませんよ?」



「違う違う、むしろこっちが買いたくて!!」



「羽鳥さんが・・・?
うち、変な壺は売ってませんけど。」



「うん、壺じゃなくてあのアパート!!」



「アパート・・・?」



繰り返した幸治君の言葉を聞き、私は鞄から資料を取り出した。



「幸治君のお父さんが所有しているあのボロボロのアパート、土地も建物も私にくれない?」



物凄く驚いた顔をしている幸治君に困った顔を作り笑い掛ける。



「私、色々あって不動産会社の営業部で働いてて。
でも営業成績がヤバいから、幸治君にワガママを言いにきたの。」



資料をカウンターの目の前の台に置き、その資料の上に私の今の名刺を置いた。



“永家不動の羽鳥一美”と明記されている名刺を。



「私の得にもなるし安部家の得にも幸治君の得にもなるから、ここはワガママと言わせて?」



困った顔を続けながら幸治君に伝える。



「この資料、お父様に渡して欲しいの。
下のごきょうだい達の学費はまだまだ掛かるだろうし、折角良い土地に建ってるアパートなのに利益になってなくて勿体無いもん。
解体費用もうちが持つし、私の知り合いっていうことで凄く好条件にはなってる。」



カウンターの台に置いた資料と名刺を見下ろすことなく幸治君が私のことを真っ直ぐと見てくる。



「お父様にこの資料をお渡しして説得して、幸治君。
安部家の得にも幸治君の得にもきっとなる。
そして・・・」



私も幸治君のことを困った顔を続けながら見詰め返す。



「私に契約1本をちょうだい?」



私の顔をジッと見詰め続ける幸治君が深く頷いた。



「父に渡してみます。
お嬢様のワガママ、レベルが違いますね。」



「うん、私は生粋のお嬢様だからね。
ワガママを言う時は大きなワガママになるみたい。
ワガママを聞いてくれてありがとう。」



「わざわざアポまで取って来てくれましたしね。
それで久しぶりに会えたらこんな大きなワガママを言ってきて、ヤバい女で面白かったので。」



「うん、私ヤバい女だよね?」



「そうですね、羽鳥さんはヤバい女ですよ。」



幸治君が懐かしくなるようなそんな失礼なことを言って、それから一夜さんの方を見た。



「羽鳥さんってヤバい女なの、知ってましたか?」
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