お嬢様は“いけないコト”がしたい
幸治君のそんな話にはティッシュで口を押さえながらも首を傾げる。
「一夜さんと?
特に何もないけど、須崎さんあの後に何か言ってた?」
「・・・俺、須崎さんに結構つっかかりましたからね。
俺が羽鳥さんのことを好きだっていうことも分かってたでしょうし、羽鳥さんも・・・」
幸治君が私のことを真剣な顔で見詰めながら口を開いた。
「羽鳥さんも、どこをどう見ても須崎さんよりも“中華料理屋 安部”が好きでしたからね。
だからあの後、須崎さんからは結構喧嘩売られたんですよ。」
「一夜さんが幸治君に喧嘩を・・・?
どうして・・・?」
「どうしてって・・・。
自分の婚約者が自分より“中華料理屋 安部”のことが大好きだったからムカついたんじゃないですか?
あの人、羽鳥さんに長年片想いをしていたって言ってましたし。」
そんな驚くことを言われ固まりそうになったけれど、慌てながら必死に言葉を出す。
「待って、幸治君凄い勘違いしてる!!
一夜さんって永家財閥の本家の次女と婚約して結婚した人だから!!」
慌てながらそう伝え、“あの日”のことをよく思い返す。
「そっか、勘違いしてて幸治君つっかかってたんだ?
確かにそう思うような言動はあったよね。
私が一夜さんのハンカチを受け取るタイミングで醤油ラーメンを置いてきたり、私がヤバい女っていうことを知っているかって聞いたり。」
「そうですね・・・。
あと、わざと羽鳥さんは“中華料理屋 安部”のことが大好きだって言いました。
それに結婚とかをしても危機感を持って生活した方がいいとも。
羽鳥さんはどこをどう見ても須崎さんよりも“中華料理屋 安部”のことが大好きだったので。」
「それはそうでしょ、あの日ほぼ初めて会話をした一夜さんよりも“中華料理屋 安部”のことが好きに決まってるもん。」
私が素直にそう吐き出すと、幸治君の目が揺れだした。
「羽鳥さんから連絡を貰って、俺は凄く嬉しくて。
あの日は強引に休みを貰って“中華料理屋 安部”に戻りました。
今度こそ、羽鳥さんに醤油ラーメンをご馳走してハンカチを渡して、駅まで送るくらいはしたいと思いながら。
それくらいなら出来る“普通”くらいの男にはなれていたので。」
「うん、ごめんね・・・?
私の説明が下手くそだったね。
正直、一夜さんの存在はそこまで気にしてなくて。」
「はい、そんな感じでしたよね。
そんな感じなのに、婚約しないといけないんだなと・・・結婚して子どもを生まないといけないんだなと。
やっぱりお嬢様はお嬢様で大変なんだなと、でもこんな相手なら羽鳥さんは“普通”以上に幸せになれるだろうなと、そう思いながら2人を見ていました。」
「そうだったんだ・・・。」
「楽しく生きて幸せになることは諦めるって、婚約者の前でハッキリと言って。
どこをどう見ても“中華料理屋 安部”のことが大好きな羽鳥さんが、その大好きな相手にそう言ってきて。
“行ってくる”と言った羽鳥さんに俺は何も言えませんでしたし、“はい”なんて言いたくもないと思いました。」
「うん・・・。」
「そっか・・・じゃあ須崎さん、本気で俺のことをどうにかしようとして喧嘩を売ってくれてたんだろうな。
俺が羽鳥さんと須崎さんが婚約してると勘違いしているのにも気付いていて、それでも俺が羽鳥さんに好きだと伝えようと動くよう、喧嘩を売ってくれていたみたいです。」
「一夜さん、そんなことをしてくれてたんだ?」
「はい、でもあの人、俺のことを舐めてますよね。
お嬢様として頑張って生きようとしている羽鳥さんの頑張りを、俺がめちゃくちゃにするわけないじゃないですか。
俺はそのくらいの“中華料理屋 安部”でしたからね。
常連客の羽鳥さんのことが大好きな、それくらいの“中華料理屋 安部”でした。」
「・・・私のこと、再会したあの頃も好きでいてくれたの?」
「はい、ずっと待ってると言ったじゃないですか。」
「うん、言ってくれてたね・・・。」
頷いた私を幸治君は熱が籠った瞳で見詰めてくる。
ぐちゃぐちゃのおばさんになっているであろう、私の顔を。
そして・・・
「でも今は、俺が羽鳥さんのことを異性として好きになることは絶対にないので。」
そう言った。
「一夜さんと?
特に何もないけど、須崎さんあの後に何か言ってた?」
「・・・俺、須崎さんに結構つっかかりましたからね。
俺が羽鳥さんのことを好きだっていうことも分かってたでしょうし、羽鳥さんも・・・」
幸治君が私のことを真剣な顔で見詰めながら口を開いた。
「羽鳥さんも、どこをどう見ても須崎さんよりも“中華料理屋 安部”が好きでしたからね。
だからあの後、須崎さんからは結構喧嘩売られたんですよ。」
「一夜さんが幸治君に喧嘩を・・・?
どうして・・・?」
「どうしてって・・・。
自分の婚約者が自分より“中華料理屋 安部”のことが大好きだったからムカついたんじゃないですか?
あの人、羽鳥さんに長年片想いをしていたって言ってましたし。」
そんな驚くことを言われ固まりそうになったけれど、慌てながら必死に言葉を出す。
「待って、幸治君凄い勘違いしてる!!
一夜さんって永家財閥の本家の次女と婚約して結婚した人だから!!」
慌てながらそう伝え、“あの日”のことをよく思い返す。
「そっか、勘違いしてて幸治君つっかかってたんだ?
確かにそう思うような言動はあったよね。
私が一夜さんのハンカチを受け取るタイミングで醤油ラーメンを置いてきたり、私がヤバい女っていうことを知っているかって聞いたり。」
「そうですね・・・。
あと、わざと羽鳥さんは“中華料理屋 安部”のことが大好きだって言いました。
それに結婚とかをしても危機感を持って生活した方がいいとも。
羽鳥さんはどこをどう見ても須崎さんよりも“中華料理屋 安部”のことが大好きだったので。」
「それはそうでしょ、あの日ほぼ初めて会話をした一夜さんよりも“中華料理屋 安部”のことが好きに決まってるもん。」
私が素直にそう吐き出すと、幸治君の目が揺れだした。
「羽鳥さんから連絡を貰って、俺は凄く嬉しくて。
あの日は強引に休みを貰って“中華料理屋 安部”に戻りました。
今度こそ、羽鳥さんに醤油ラーメンをご馳走してハンカチを渡して、駅まで送るくらいはしたいと思いながら。
それくらいなら出来る“普通”くらいの男にはなれていたので。」
「うん、ごめんね・・・?
私の説明が下手くそだったね。
正直、一夜さんの存在はそこまで気にしてなくて。」
「はい、そんな感じでしたよね。
そんな感じなのに、婚約しないといけないんだなと・・・結婚して子どもを生まないといけないんだなと。
やっぱりお嬢様はお嬢様で大変なんだなと、でもこんな相手なら羽鳥さんは“普通”以上に幸せになれるだろうなと、そう思いながら2人を見ていました。」
「そうだったんだ・・・。」
「楽しく生きて幸せになることは諦めるって、婚約者の前でハッキリと言って。
どこをどう見ても“中華料理屋 安部”のことが大好きな羽鳥さんが、その大好きな相手にそう言ってきて。
“行ってくる”と言った羽鳥さんに俺は何も言えませんでしたし、“はい”なんて言いたくもないと思いました。」
「うん・・・。」
「そっか・・・じゃあ須崎さん、本気で俺のことをどうにかしようとして喧嘩を売ってくれてたんだろうな。
俺が羽鳥さんと須崎さんが婚約してると勘違いしているのにも気付いていて、それでも俺が羽鳥さんに好きだと伝えようと動くよう、喧嘩を売ってくれていたみたいです。」
「一夜さん、そんなことをしてくれてたんだ?」
「はい、でもあの人、俺のことを舐めてますよね。
お嬢様として頑張って生きようとしている羽鳥さんの頑張りを、俺がめちゃくちゃにするわけないじゃないですか。
俺はそのくらいの“中華料理屋 安部”でしたからね。
常連客の羽鳥さんのことが大好きな、それくらいの“中華料理屋 安部”でした。」
「・・・私のこと、再会したあの頃も好きでいてくれたの?」
「はい、ずっと待ってると言ったじゃないですか。」
「うん、言ってくれてたね・・・。」
頷いた私を幸治君は熱が籠った瞳で見詰めてくる。
ぐちゃぐちゃのおばさんになっているであろう、私の顔を。
そして・・・
「でも今は、俺が羽鳥さんのことを異性として好きになることは絶対にないので。」
そう言った。