お嬢様は“いけないコト”がしたい
私から視線をパッと逸らし、料理を作りながら幸治君は続ける。



「羽鳥さんが作るご飯、味が美味しいのも勿論ですけど、ちゃんと込められていたので。」



「込められていたって?」



「俺への想い。」



そう言われ、それにはドキドキとして固まる。



“幸治君のことを異性として好きになることは絶対にないから。”



そう宣言をしたのにそんなことを言われてしまって。



「自分の気持ちを押し付けるような想いじゃなくて、俺のことを考えて俺の為になるような想いが込められている料理でした。」



そう言われ・・・。



「俺は両親から、料理を作る時はお客さんのことを考えてお客さんの為になるような想いを込めるよう言われていました。
“美味しい”と思わせようとか、“美味しい”と言わせようとか、そういうことを押し付けるのではなくて。」



「そうだったんだ・・・。
だから幸治君の醤油ラーメンはあんなに美味しかったんだ・・・。
私にどんな想いを込めてくれてたの?」



「土曜日に来てくれた時は、“今週もお嬢様としての羽鳥一美さん、お疲れ様でした。”ですね。
日曜日は“今週もお嬢様としての羽鳥一美さん、頑張ってください。”と。」



「だから頑張れてたのか~・・・。
あの頃は財閥も大変な状況だったし、小関の家を出てお母さんと2人暮らしを始めてたし、24歳、25歳だった羽鳥一美は凄く大変な時期だったんだ~・・・。」



「そうですよね、知ってます。」



「うん、いつも幸治君に言ってたからね。」



「ご飯出来ました、食べましょうか。」



幸治君がキッチンカウンターの上に料理をのせた。
お粥とホウレン草のごま和えと卵焼きを。



「無理して食べないでくださいね、もう31歳なんですから。」



「分かってるよ~・・・!!」



幸治君が置いてくれた料理をダイニングテーブルへと運んでいく。



“苦しい”と感じながら運んでいく。



“良い奥さんになると思いますよ。”



どんな気持ちでその言葉を言ってくれたのかと思うと、幸治君のことを考えると、私の胸の“苦しい”という気持ちよりもずっとずっと“苦しい”と思った。



「幸治君の奥さんになってもいい・・・?」




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