お嬢様は“いけないコト”がしたい
私の唇を塞いでいる幸治君の唇。
勢いよく触れ合った唇はお互いに離すことなく、長い時間唇と唇が重なったまま。



完全に下ろしてはいない瞼から見える幸治君の瞳を見詰め続けている私の目を、幸治君も見詰め返してくれている。



無意識に私の両手も幸治君のしっかりとした背中に回っている。
止めていた呼吸はどんどんと苦しくなってきて、ドキドキと速さを増す胸はもっと苦しくなってきて。



幸治君の背中に回している両手に力が入っていく。
幸治君の身体にすがり付くように身体を密着させながら幸治君の唇から離れないようにしていたけれど・・・



苦しくて苦しくて・・・。



呼吸をする為に幸治君の唇からゆっくりと唇を離し、幸治君の瞳を見詰めながら口から空気を少し吐き出した後、少しだけ空気を吸い込んだ・・・



そしたら、その瞬間・・・



「・・・ンッ・・・!」



幸治君も口を開き、開いている私の口をまた勢い良く塞いできた。



そして・・・



「・・・ンッ」



私の口の中に幸治君の舌が素早く入ってきて。



「ハァッ・・・ヤバ・・・あぁ・・・っ」



私の舌を追いかけながら幸治君の吐息は興奮していき、釣られるように私の吐息も興奮していく。



「・・・ンッ・・・なんか、気持ちいぃ・・・っ」



「俺も・・・ハァッ・・・すげー旨いし・・・っ」



私の腰に回っていた幸治君の片手はゆっくりと動かされ、私の頭の後ろを支えた。



後頭部に幸治君の大きくて熱い手を感じたかと思ったら・・・



「・・・ンンッ・・・っっ・・・ん・・・っ!!」



もっと深く激しく、私の口の中は幸治君の舌でかき混ぜられていく。



咄嗟に後ろに一歩逃げようとしたけれど、腰に回っている手で逃げられない。
逃げられないどころか頭の後ろに回された手でもっと私の顔を幸治君の顔の方に引き寄せられ、腰に回っている手は強く私のことを抱き締めてくる。



苦しいけれど、幸せで・・・。



泣きたくなるくらいに幸せで・・・。



泣くのを必死に我慢し、私も幸治君の舌の動きに応えるよう、夢中で舌を動かしていく。



泣いてしまったらこの幸せな時間が終わってしまうのは分かった。



その涙と一緒に伝えてはいけない想いを吐き出してしまうのは簡単に想像出来た。



まだ満足出来ていない。



私はまだまだ全然満足出来ていない。



まだ幸治君と一緒にいたい。



まだ“普通の幸治君”の奥さん、“普通の一美”でいたい。



“安部幸治”の奥さん、“安部一美”になることは出来ないけれど・・・



“普通の幸治君”の奥さん、“普通の一美”にはなることが出来たから。



まだ終わりたくない・・・。



まだ全然満足出来ていないから終わりたくない。



目をギュッと瞑り涙を閉じ込めながら、幸治君との幸せなキスに酔いしれた。
< 97 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop