五人の竜神に愛されて~私が光の女神だなんて、聞いてない!?

10.命の恩人

「え?」
入学式を終えて、自分の教室に向かった俺はある女の子を見て、足を止めてしまっていた。
そんなに目立つような子ではないけど、目を引くような可愛らしさがある女の子。
自分の可愛さを自覚していなさそうで、少しだけ自信なさげな立ち振る舞いが、その子の魅力をさらに引き立てていた。
「えっと、なにかな?」
「え、いや、なんでもない」
思わず見惚れてしまっていた俺はそんな彼女の言葉に、紛らわすような言葉を口にしていた。
自分の席に着くと、俺は落ち着く暇もなく俺はすぐにクラスメイトに囲まれてしまった。
俺が竜神っていうこともあってか、昔から人に囲まれるような生活を送っていたので、クラスメイトに囲まれても特に動揺したりはしない。
初めて会う気さくなクラスメイトと言葉を交わしながら、ふとさっきの女の子の方に視線を向けた。
あの子って……昔、俺を助けてくれた女の子だよな?
俺は昔、竜化して修行をしていた時に大きな怪我をしたことがあった。
それこそ、自分で動くこともできなくなるような大怪我。
そのときに、俺のそばに駆け寄って来た女の子が、神社にいた大人を呼んできてくれたのだ。
その時の可愛かった女の子。
瞳の色とか、声とか香りとか、当時のあの子とすごく似ている。
昔から成長していても、すぐにあの子だということが分かった。
黒板に書かれている席の一覧表に目を向けると、あの子の席の所に『神崎花音』という名前が書かれていた。
神崎。神崎って言うのか。
危ない状態の俺を助けてくれた女の子。
俺のあの姿を見ても怖がることなく、恐れることなく俺の頭を撫でてくれた女の子。
ずっと恩返ししたいと思っていた女の子との再会を前に、俺は鼓動を速めていた。
……あれ? 何だこの気持ち。
ただ再会を喜ぶだけではない気持ち。
それは、姉さんに読まされた少女漫画に描かれていたような気持だった。
もしかして、俺って神崎に恋してる?
そう思うと急に恥ずかしくなって、俺は口元と共にその感情も隠した。
助けてもらったから好きになるって、ちょろ過ぎないか、俺。
本当はすぐにいろんな話をしたかったけど、当時は人間の姿で会ってないから、神崎からしたら俺は初対面の男の子ということになる。
そうすると、いきなり距離を詰めるのも考えものか。
……とりあえず、挨拶から初めて見るか。
少しずつ仲良くなって、いつかは神崎のことを守ってやれるような存在になりたい。
そんな決意を胸に、俺は学園生活を送ることになったのだった。

その数か月後、俺は考えもしなかった展開から、神崎のことを守ることになるのだが、この時の俺はまだ知らなかった。
そして、それからどれだけの月日が流れても、神崎を守っていきたいという気持ちだけは揺らぐことがないのだが、この時の俺はまだ知らなかった。
そして、これから仲良くなって、ずっと隣に居続けるということも、この時の俺はまだ知らないのだった。
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