五人の竜神に愛されて~私が光の女神だなんて、聞いてない!?

2.誕生日を境に変わる生活

「花音―、誕生日おめでとう!」
「雪ちゃん、ありがとうっ」
そして数日後、私は十三歳の誕生日を迎えた。
私が登校して席に着くなり、雪ちゃんは私の膝の上に座って、ほっこりとした顔をしていた。
「花音は今日から私よりお姉さんかぁ。大きくなったねぇ」
雪ちゃんはそう言うと、どこから取り出したのかラッピングされた小袋を私に手渡してきた。
可愛いピンク色のラッピングに包まれていて、『お誕生日おめでとう』というシールまで貼ってある。
「雪ちゃん、これって、誕生日プレゼント?」
「そうだよー。まぁ、開けてみてよ」
雪ちゃんに言われてラッピングを取ってみると、そこにはシンプルな水色のシャーペンが入っていた。
少しだけ大人っぽくて、スマートな感じがするシャーペン。
「ありがとう! 大事にするね!」
「どうしたしまして。まぁ、シャーペンだから、大事にするよりも、しっかり使ってくれた方が嬉しいかも」
雪ちゃんは照れるようにそんなことを言って、私の膝の上で足をパタパタとさせていた。その様子が可愛らしかったので、後ろからきゅっと抱きつくと、雪ちゃんは耳を少しだけ赤くさせていた。
その雪ちゃんの反応見て、やっぱり私なんかよりも雪ちゃんの方が可愛いなぁと思っていると、廊下がわっと騒がしくなった。
ちらりと時計を確認すると、いつも青山君が登校する時間を指していた。
いつもみたいに少しずつその声量が近づいてきて、廊下にいる女の子達をそのままにして、青山君が教室に姿を現した。
「青山君おはよう!」
「おっす、青山!」
「葵君! おはよう!」
いつも通りにみんなから挨拶をされて、それに笑顔で挨拶を返す青山君。
だけど、教室に入って少ししたら、その笑顔が消えていた。
え? 青山君が私を見てる?
勘違いかと思っていると、青山君は驚いた顔をしたまま私のすぐ前まで来た。
「えっと、青山君?」
「ごめん、神崎ちょっとこっち来て。冬野ごめん、ちょっと神崎からどいてもらっていいかな?」
ただ席に座っていただけの私達を見て、何か必死な表情をしている青山君。
当然、思い当たる節なんてないんだけど、雪ちゃんは青山君の本気な顔を見て、私の膝からぱっと下りた。
「ここじゃマズいから、ちょっと場所変えるよ」
「え?」
青山君はそう言うと、私の手首を掴んで教室を後にした。
まだ廊下にいた女の子達も青山君のことを見ていたので、その視線の先が青山君だけじゃなくて、私の方にも向けられてしまっていた。
何かを勘違いして、口元を塞いでいるような女の子達もいるみたい。
青山君が女の子の手を引かれているんだから、そんな反応にもなっちゃうよね……。
「あ、青山君? その、そろそろ朝のホームルーム始まっちゃうよ!」
「ごめん。そんなこと気にしてる場合じゃないみたいだから」
後ろ姿から見て分かるくらい、今の青山君が何かを本気で何かの心配をしているみたいだった。
周りにいた女の子達も、その青山君の表情を見て声をかけないようにしてるいみたいだし、何か緊急事態が起きているのかもしれない。
でも、そんな事態なんて関係なく、青山君に手を引かれている私は目立ってしまっていたみたいで……。
私は少しだけ強く手を引かれながら、恥ずかしくなって顔を熱くさせてしまっていた。
青山君、普段は優しい感じなのに結構力強いんだとか、女の子の指と違って少し骨ばっているんだとか感じてしまうと、余計に青山君を感じてしまって、もう少しだけ体が少し熱くなってしまっていた。
そして、私はそのまま空き教室まで青山君に手を引かれていったのだった。
「……ここなら、大丈夫かな?」
空き教室の扉を開けて誰もいないことを確認してから、青山君は私の手首を引いて、私を教室に入れた。
空き教室で青山君と二人きり。
そんな状況で心臓の音を大きくさせてしまっている理由は、青山君がずっと私の手首を握っているからだと思う。
「えっと、青山君?」
「え? あっ、ごめん」
私がちらっと握られていた手首に視線を向けると、青山君もそれに気づいたみたいで、慌てて私の手首から手を離してくれた。
なんだか青山君の顔まで赤くなってきて、照れくさそうに頬を掻く仕草が可愛くて、私はそんな青山君から目を離せなくなってしまっていた。
「急に手首掴まれて、嫌だったよな?」
「い、嫌じゃないよ! 少し、驚いたけど」
青山君に手を引かれて嫌がる女の子なんているはずがない。
そんな意味で言ったんだけど、私にそう言われた青山君は少しだけ驚くような顔をしていた。
も、もしかして変な勘違いとかされちゃう言い方だったかな?
「えっと、何か用事があったんだよね?」
「え?あ、うん。そうなんだけどさ……」
私が誤魔化すようにそう言うと、青山君はすぐに真剣な顔になった。
そして、私のことを正面からじっと見て、何かを考えるみたいに顎に手を置いて私の顔をじっと見ていた。
「青山君?」
「やっぱり、そうか。でも、まさか神崎が……」
青山君はしばらく信じられないような顔をしていた。
正面から青山君の真剣な顔に覗かれてしまって、私は恥ずかしくなって視線を逸らしてしまう。
「青山君、そろそろ朝のホームルーム始まっちゃうよ?」
「そうだな。……とりあえず、放課後までは神崎に応急処置だけでもしておくか」
「応急処置? え、私どこか怪我してるの?」
青山君の言葉を聞いて、私はどこか気づかないうちに怪我でもしていたのかと思って、自分の体を確認してみた。
だけど、どこかから血が流れているようなことはない。
「怪我って……ふふっ、神崎って意外に面白いんだな」
青山君は私がきょろきょろと怪我した箇所を見つけようとしていると、小さく噴き出すように笑いだす。
「だ、だって、青山君が応急処置するって」
「そういう意味じゃないよ。ていうか、そんな怪我してたら、神崎気づくでしょ?」
さっきまでの焦ったような表情を緩めて笑う青山君の姿を見て、私は急に恥ずかしくなってきてしまった。
優しく笑う顔をこんなに近くから向けられると思わなかったので、不意を打たれた私の心臓はきゅうっとなってしまっていた。
「な、何もないなら、私もう教室戻るよ?!」
「ごめんって、つい可愛くてからかいすぎた。ちょっと待ってて」
「か、かわっ」
なんか今、さらりと凄いこと言われなかった?!
当たり前のことを言うみたいにそんなことを言われて、私は目に見えて動揺を隠せなくなっていた。
心臓の音がどんどんうるさくなっていくんだけど、どうしたらいいの、私……。
私が何も言い返せなくて黙っていると、青山君は鞄の中から何かを取り出して、また私の方に向き直った。
「神崎、手首出して」
「手首? こう?」
私が青山君に言われるがままに手首を差し出すと、そっと青山君の手が私の手首に触れた。
「……よっし。とりあえず、放課後までそれ外さないでね」
「外さないでって……え、これって」
そっと触れられた青山君の手が離れたと思ったら、私の手に青色と白色の糸からできているミサンガが着けられていた。
それは、普段青山君が着けているのと同じものだった。
それはみんな知っていることで、今も青山君の手首には私が着けたのと同じ色のものが着けられている。
「これ、青山君がいつもしてるのと同じ色のミサンガだよね?」
「うん、お揃いだね」
青山君は少しワイシャツを袖まくりして、手首に着けているミサンガを私に見えやすいようにしてくれた。
……つまり、私は今青山君と同じアクセサリーを着けてるってこと?
な、なんで急にこんなことになってるの?!
「えっと、外したりしちゃダメ?」
「絶対だめ。放課後にちゃんと説明するから、それ着けてて」
青山君は少しだけ顔を近づけてきて、真剣な表情で私を覗き込んでいた。
そんな目で見つめられて、私は目も逸らすことができなくて、ただどきどきすることしかできなかった。
でも、これって誰かに見つかっちゃたら、勘違いされちゃうんじゃないかな?
そんなことを考えても、青山君の真剣な瞳を前に何も言えなくて、私はきゅっと唇を強く閉じることしかできなかった。

「ペアルックじゃん!!」
「そ、そんなんじゃないよ」
「お揃いを着けるってことは、ペアルックでしょ?」
「そ、そうなんだけど。そんな言い方すると、何か意味があるみたいに思うじゃん」
「お揃いだよ? 意味なく着けさせると思う?」
雪ちゃんにそう言われて、どれだけ考えてみても意味もなくお揃いを着ける意味が分からなかった。
私が何も答えらえないでいると、雪ちゃんは徐々に表情をにんまりとさせていった。
うぅ、なんか何も言い返せないのが悔しい。
「でも、なんで急に? 私、青山君とそんなに話したこともないんだよ?」
「あっ、誕生日プレゼントってことじゃないの?」
「誕生日プレゼント?」
「ほら、今朝私が花音にプレゼントあげたところに、青山君来たでしょ?」
確かに、私が雪ちゃんから誕生日プレゼントを貰って、それを眺めている所に来たかもしれない。
でも、誕生日プレゼントを渡すだけなら、あんな顔するかな?
「それに加えて、放課後にお誘い……もしかして、花音告られるんじゃないの?」
「告白? え、誰から?」
「話の流れから分かるでしょ。青山君からだよ」
「青山君から?!」
私が驚く様子を見て、雪ちゃんは呆れたようにため息を吐いていた。
だって、そんなことあり得ないでしょ?!
学校の人気者が、私なんかに告白してくるなんて!
「何があったか絶対教えてね!」
「うん。話せることだったらね」
雪ちゃんは告白されるんじゃないかって言ってくるけど、私にはとてもそんな空気には思えなかった。
わざわざ人がいない所に連れて行ったあたりも、必死な表情もいつもの青山君っぽくなかったし。
あと気になるのは『応急処置』っていう言葉。
その後に私にミサンガを着けてくれたってことは、多分このミサンガが何か関係してると思うんだけど……。
だめだ。全然分かんないや。
私は考えることをそこで断念して、お弁当の続きを食べることにしたのだった。
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