バツイチですが、クールな御曹司に熱情愛で満たされてます!?
 特に私は入社年次が近く、案件を一緒に担当したことも何度もある。私は彼にとっては同じ課の中で相談しやすい相手のはずなのに。

自分のことで精いっぱいで彼がどこまで困っているのわからなかった。もっと早く声をかければ、彼はあんなふうに疲れ切った顔をしないですんだかもしれないのに。

 まだまだだな……私も頑張らなくちゃ。

 私はこの会社に転職して二年目だ。しかし前の会社も同じIT業界で職種も同じく営業とあって、ある程度のことを自分で管理できる。

 しかし責任者の不在の今は、もっと周囲に気を配るべきだった。

 これが終わったら、大野君の案件を優先して手伝った方がいいかも。

 私は先ほどの仕事のリストを作り直してから、今日一日の業務を始めた。

 私の勤める御門システムズ株式会社はソフトの開発やインフラ整備などを手広く行っている。従業員は全国千人弱。業界では中堅どころの会社だ。

 私はここで営業として日々お客様のニーズと自社製品を繋ぐ仕事をしている。

 既存顧客に加え新規顧客の開拓も行う。お客様の悩みを解決するこの仕事は、おせっかいな私には天職だ。

 先ほど預かったデータを加筆と修正する。要点をしっかり押さえているので、案外早く作業が終わりそうだ。

 そうこうしていると、別の人からも声がかかる。気が付けばフロアは多くの人が出社して活気づいていた。

「佐久間さん、例の小学校の教育システム入札の件なんだけど、参加資格の申請はどうなっていますか?」

 営業事務で私の補佐をしてくれている松本(まつもと)さんだ。私のひとつ年下の彼女だが、高卒業と同時に入社しているので私よりも社内の事情もよくわかっている。

 見かけはシマリスのように小さく癒し系なのだけれど、仕事は的確でよく気がつくので時々ミスをする私をいつもカバーしてくれる頼れる存在だ。

 年齢も近くランチにもよく一緒にいくし、たまには飲みに行きお互い愚痴をこぼしたりもする。社会人になると学生のときの友達とは疎遠になりがちなので、こうやって身近で話しやすい年の近い人がいてくれてうれしい。

「ありがとう。それなら年度替わりにちゃんと手続きしたから大丈夫です。念のためこの間確認もしたし」

「さっすが~それを聞いて安心しました」

「こちらこそ、いつもちゃんと確認してくれて助かるわ。忙しいと確認漏れが発生しがちだから。ありがとうね」

 事務担当とのスムーズなやり取りも大切だ。おかげでひとりではさばききれない仕事でもしっかりやりきれている。

 仕事では周囲に頼られ、やりがいも感じている。

 もちろん仕事なのでうまくいかないことも多い。それでもこの仕事が好きだから続けられる。

「あ、そうだ。聞きましたか?」

「なに、なに?」

 松本さんが、体をかがめて小声で教えてくれる。あまり聞かれないほうがいい話のようだ。

「課長不在の期間が長くなりそうなので、来月から新しい課長が来るみたいですよ。転職らしいです」

「外部から来るの?」

 驚いて大きな声をあげそうになったのを、なんとか耐えた。しかしはじめて聞く話だ。ただ途中入社が多い会社なので特別ではない。

「はい。だから今日はおそらく主任の機嫌が悪いと思うので、お互い気を付けましょうね」

 たぶん主任は次の課長のポストを狙っていたのだろう。それなのに別の人がやってくるのだから残念に思うのは理解できる。

 人生なかなかうまくいかないなぁ。

 のんびりとそんなことを考えていたけれど、私も〝うまくいかない人生〟を実感するはめになる。


 大野君のプレゼンはうまくいき、なんとか契約をもらえそうでホッとした。

 本人も朝はすごい顔色をしていたが、今は笑顔を浮かべているのでほっとした。

 今日くらいは早く帰ってよく寝てほしい。上司がいない中、みんながそれぞれカバーをし合って仕事をしていた。

 主任はたしかに少し機嫌が悪かったけれど。

 そして八月一日。一週間前に梅雨が明け、蝉の声を聞きながら通勤する時季になった。

 相変わらず忙しい中、昨日松本さんが言っていた新しい上司がやってきた。

 それはわが社のコアタイムである十一時を過ぎた頃だった。

 営業に出ている社員が数人いたものの社内に一番人が多い時間だ。

 私は新しい課長が来るとわかっていたので、午前中のアポイントを終わらせてから会社に戻る。

 少し遅くなっちゃった……。急がなきゃ。

 お客様の現状把握も大切な仕事だ。戻ったらすぐに顧客データを更新しなくては。

 灼熱の外回りから会社のエントランスに入った。ひんやりとした空気に生き返るようだ。汗をハンカチで拭いながら、エレベーターに乗り込んで営業部に向かう。
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