バツイチですが、クールな御曹司に熱情愛で満たされてます!?
その事実がなんだか悔しくて、私はしっかりと顔を上げて彼をまっすぐ見た。
「おひさしぶりです。谷口課長」
彼がニヤッと笑ったのが癪にさわったが、気が付かないふりをした。
「どうぞ、座って」
「失礼します」
昔はいろいろあったけれど、今は上司と部下だ。淡々と対応するのが一番いい。
「元気だったか?」
「おかげさまで、充実した毎日を過ごしています」
けっして嘘ではない。胸を張って言える。
「そうか、少しやせたみたいだけど」
プライベートな感想を持ち出された私は、笑顔を浮かべるだけにとどめた。
なにも言わない私をとくに気にする様子もなく、彼は人事資料であろうバインダーを閉じた。本来ならそれを見ながら話を進めるべきものだ。
彼の行動から、私とまじめに面談をするつもりがないのだと感じる。
「今はどうしているんだ?」
「……どういう質問でしょうか?」
「結婚は?」
首を左右に振って否定する。家庭があるかどうかはチームで仕事をするにあたっては考慮が必要な場合があるので質問に答えた。
「彼氏は?」
揶揄するような笑みを浮かべる目の前の良介を見て、嫌悪感を持つ。
「それはお答えする必要はありませんよね?」
「あぁ、確かにそうだね。でも俺が知りたいんだ。答えて」
仕事の話なら命令されても仕方ない。しかしこれは完全にプライベートな話だ。答える義務はない。
まだ私を自分の思い通りになる人間だと思っているの?
どこまでバカにされているのかと、悲しみを通り越してふつふつと怒りが湧き上がる。
「仕事に必要のない内容には答えたくありません。次の人が待っているでしょうから、失礼します」
私は立ち上がって会議室を出た。
良介はそれを咎めはしなかった。あくまで顔合わせの面談だ。業務に支障が出ることはないだろう。
上司に取る態度ではないだろうが、最初にプライベートの話を持ち出し嫌な態度を取ったのは向こうだ。このくらいは許されるはず。
怒りを抑えながらデスクに戻ると、大きなため息が出た。
「どうかしたんですか? 谷口課長ってそんなに厳しい人なんですか?」
私の態度を誤解した松本さんが、心配そうにしている。
「ごめん、ため息なんかついたから誤解させちゃったね。ちょっと頭が痛くて」
適当な嘘をついてごまかす。
私は別に良介と周囲の関係を悪くしたいわけじゃない。ただ他の人と同じように普通の部下として接してほしいだけなのだ。
「ちゃんと仕事をしていれば、大丈夫じゃないかな?」
実際に彼は、人付き合いが大変上手だ。
だからむやみに人とトラブルを起こすわけではない。私から言わせれば裏と表を上手に使い分ける能力に長けている人だ。
離婚をした時「高い勉強代だったね」なんて離婚を報告した両親に言われた。ここにきて私はまだその勉強代を払わなくてはいけないのだろうか。
先を思うと、憂鬱で仕方なかった。
「お祓いにでも行こうかな」
自宅マンションで、缶ビール片手にひとり呟いた。
まだまだ仕事は残っていたけれど、今日みたいな気分の日は残業しても効率が落ちる。潔く帰宅して、お風呂を済ませて冷えたビールで自分をねぎらう方がはるかに有意義だ。
あれから良介は何事もなかったかのように仕事をしていた。彼もそのあたりはわきまえているようだ。
「あー、過去のこと口止めした方がよかったかな。でもお願いして意識していると思われるのも嫌だし」
できれば再会したくなかったけれど、なんの因果がまた上司と部下という立場になった。
でもそれ以上でもそれ以下でもない。〝嫌い〟という感情すら持ちたくないというのが本音だ。
「まぁ、なるようになるか」
ただ結婚していたという事実だけならばれてしまっても、問題はない。最初は好奇心にまみれた視線を向けられるだろうけれど、それもすぐに収まるはずだ。
だがどんな内容が広まるのか考えるのが怖い。良介の今日の面談中の態度から、今後が彼の方から昔の話を持ち出す可能性がある。
もし彼が悪意のこもった話を広めたら……?
変な噂が立ったとしても、私を信じてくれる人はいる。それくらいの信頼関係を職場の人とは築いてきたつもりだ。
「……でも、嫌なものは嫌だぁ」
私は声に出した後、背後にあるソファに倒れ込だ。そしてそのままスマートフォンを手にして、厄払いで有名な神社を検索する。
困った時しか頼りにしなくて申し訳ないと思いつつ、神頼みしたくなるほど今日の出来事は私の中で衝撃すぎた。
スマートフォンの画面には、パワースポットや縁切り寺などと言われる神社仏閣が並んでいる。
あっ……ここなら近くだから日帰りで行けるかも。縁切り寺に行ってからパワースポットに行けば完璧なのでは?
「おひさしぶりです。谷口課長」
彼がニヤッと笑ったのが癪にさわったが、気が付かないふりをした。
「どうぞ、座って」
「失礼します」
昔はいろいろあったけれど、今は上司と部下だ。淡々と対応するのが一番いい。
「元気だったか?」
「おかげさまで、充実した毎日を過ごしています」
けっして嘘ではない。胸を張って言える。
「そうか、少しやせたみたいだけど」
プライベートな感想を持ち出された私は、笑顔を浮かべるだけにとどめた。
なにも言わない私をとくに気にする様子もなく、彼は人事資料であろうバインダーを閉じた。本来ならそれを見ながら話を進めるべきものだ。
彼の行動から、私とまじめに面談をするつもりがないのだと感じる。
「今はどうしているんだ?」
「……どういう質問でしょうか?」
「結婚は?」
首を左右に振って否定する。家庭があるかどうかはチームで仕事をするにあたっては考慮が必要な場合があるので質問に答えた。
「彼氏は?」
揶揄するような笑みを浮かべる目の前の良介を見て、嫌悪感を持つ。
「それはお答えする必要はありませんよね?」
「あぁ、確かにそうだね。でも俺が知りたいんだ。答えて」
仕事の話なら命令されても仕方ない。しかしこれは完全にプライベートな話だ。答える義務はない。
まだ私を自分の思い通りになる人間だと思っているの?
どこまでバカにされているのかと、悲しみを通り越してふつふつと怒りが湧き上がる。
「仕事に必要のない内容には答えたくありません。次の人が待っているでしょうから、失礼します」
私は立ち上がって会議室を出た。
良介はそれを咎めはしなかった。あくまで顔合わせの面談だ。業務に支障が出ることはないだろう。
上司に取る態度ではないだろうが、最初にプライベートの話を持ち出し嫌な態度を取ったのは向こうだ。このくらいは許されるはず。
怒りを抑えながらデスクに戻ると、大きなため息が出た。
「どうかしたんですか? 谷口課長ってそんなに厳しい人なんですか?」
私の態度を誤解した松本さんが、心配そうにしている。
「ごめん、ため息なんかついたから誤解させちゃったね。ちょっと頭が痛くて」
適当な嘘をついてごまかす。
私は別に良介と周囲の関係を悪くしたいわけじゃない。ただ他の人と同じように普通の部下として接してほしいだけなのだ。
「ちゃんと仕事をしていれば、大丈夫じゃないかな?」
実際に彼は、人付き合いが大変上手だ。
だからむやみに人とトラブルを起こすわけではない。私から言わせれば裏と表を上手に使い分ける能力に長けている人だ。
離婚をした時「高い勉強代だったね」なんて離婚を報告した両親に言われた。ここにきて私はまだその勉強代を払わなくてはいけないのだろうか。
先を思うと、憂鬱で仕方なかった。
「お祓いにでも行こうかな」
自宅マンションで、缶ビール片手にひとり呟いた。
まだまだ仕事は残っていたけれど、今日みたいな気分の日は残業しても効率が落ちる。潔く帰宅して、お風呂を済ませて冷えたビールで自分をねぎらう方がはるかに有意義だ。
あれから良介は何事もなかったかのように仕事をしていた。彼もそのあたりはわきまえているようだ。
「あー、過去のこと口止めした方がよかったかな。でもお願いして意識していると思われるのも嫌だし」
できれば再会したくなかったけれど、なんの因果がまた上司と部下という立場になった。
でもそれ以上でもそれ以下でもない。〝嫌い〟という感情すら持ちたくないというのが本音だ。
「まぁ、なるようになるか」
ただ結婚していたという事実だけならばれてしまっても、問題はない。最初は好奇心にまみれた視線を向けられるだろうけれど、それもすぐに収まるはずだ。
だがどんな内容が広まるのか考えるのが怖い。良介の今日の面談中の態度から、今後が彼の方から昔の話を持ち出す可能性がある。
もし彼が悪意のこもった話を広めたら……?
変な噂が立ったとしても、私を信じてくれる人はいる。それくらいの信頼関係を職場の人とは築いてきたつもりだ。
「……でも、嫌なものは嫌だぁ」
私は声に出した後、背後にあるソファに倒れ込だ。そしてそのままスマートフォンを手にして、厄払いで有名な神社を検索する。
困った時しか頼りにしなくて申し訳ないと思いつつ、神頼みしたくなるほど今日の出来事は私の中で衝撃すぎた。
スマートフォンの画面には、パワースポットや縁切り寺などと言われる神社仏閣が並んでいる。
あっ……ここなら近くだから日帰りで行けるかも。縁切り寺に行ってからパワースポットに行けば完璧なのでは?