バツイチですが、クールな御曹司に熱情愛で満たされてます!?
環さんは声を弾ませながら受け取ってくれた。
「はい。以前、食べたいっておっしゃっていたから。次の大阪出張の時には買って帰ろうと思っていたんです」
「あら、うれしい。じゃあやっぱり上がっていって、一緒に食べましょう。ちょっとした来客中なんだけど」
「それならなおさら今日は遠慮します。そのお客様にでもお出ししてください。では」
「あら、もう」
環さんは不服そうだったけれど、話しはじめると楽しくなってついついいつも長居してしまう。だから今日はさっさとお暇することにした。
「大きな仕事のチャンス巡ってきそうなんです。今日はしっかり休んで、明日から頑張らなきゃ」
「本当に? よかったじゃない。でもあまり無理しないでね。また近いうちに遊びに来てね」
「はい。もちろんです」
玄関で短いやり取りをして、自宅に向かう。
大阪出張中に大野君から連絡があった。
グランオクトホテルから宿泊受付システムの入れ替えの依頼があったようだ。もちろん他社と競うことになり、プレゼンに参加して仕事を勝ち取ることになる。久しぶりの大型案件に社内の士気が上がっている。
その担当を私と大野君がやることになったのだ。
若手のふたりで担当することに反対の社員もいたようだが、普段の頑張りを見てもらって担当できることになったのは素直に喜ぶべきことだ。
体は疲れているはずなのに、やる気に満ち溢れている。
今回の大阪出張の成果も上々、新しい仕事も楽しそうだ。
だからきっと上司が元夫だったとしても、これまで通りなんら問題なく仕事ができると信じている。
それから約二十日間。八月下旬グランドオクトホテルのプレゼンのために私は謀殺された。
もう少し時間があればいいのだけれど、せっかく巡ってきたチャンスだから妥協はしたくない。
私と大野君は他のメンバーたちの知恵と労力を借りながら、なんとかプレゼン資料を仕上げた。
他の顧客の業務ももちろん平行しているので、毎日終電で帰る日々。
それでも私も大野君も前向きにグランドオクトホテルの仕事を受注するべく全力で取り組んでいた。
そしてとうとうプレゼンの当日。私と大野君。それから良介も同行してグランドオクトホテルのシステム部の窓口社員数人と決裁者の前でプレゼンを行った。
普段はカフェラウンジを利用する会社で、こんな風に仕事をするとは思わなかったが、もし自社のシステムが利用されるならでうれしい。
「では、始めさせていだきます」
プレゼンは順調に進んでいく。
今回は大野君がメインで進行している。社歴は浅いが落ち着いてゆっくり話をする彼はこういった場を任せるのがいい。時々私が補佐をする形をといっている。
良介は先方から出てきた質問を私か大野君に投げるという仕事をしていた。今回は責任者も同席しており、こちらも本気だと印象づけるという役割だからこれでいい。
「ありがとうございました。結果は追って連絡します」
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございました」
深々と挨拶をして部屋を出た。私と大野君ははぁと息を吐きやっと緊張を解く。
「お疲れ様。相手の感触も上々だったな」
良介は頑張った大野君をねぎらっている。彼は昔から仕事ではこうやって周囲への気遣いを見せる人だった。
「すみません、ちょっと」
三人で話をしているときに、大野君のスマートフォンに着信が入った。彼は頭を下げてその場から離れる。
ふたりきりになったとたん、良介の態度が豹変する。
「あの程度資料に半月以上費やしたのか、お前の指導はどうなっているんだ」
「……申し訳ありません」
ただただ頭を下げた。ここで言い争いをしても何もいいことはないからだ。しかし心の中では不満が吹き荒れている。
上司ならばあの資料を作成するのに、たくさんの人のアイデアや労力が費やされたのを知っているはずだ。
それなのに、感触のよかったプレゼンの後にこんな言い方をするなんて。大野君の前ではいい上司の顔をしていたのに。
また前みたいに、私の言葉に誰も耳をかたむけてくれなかったらどうしよう。いや、でも今はこの場を収めるのが先決だ。おびえている場合じゃない。
「私が他の業務に時間がかかってしまい、満足のいく資料作りができずにすみませんでした」
「業務の見積もりを間違えるなんて、いったい社会人何年目なんだ」
「申し訳ありません」
悔しいけれどここは我慢をするべきだ。
「俺は前の上司とは違う、もちろん佐久間さんは知っているだろう。甘えたことは許さないからな。次からはしっかりやるように」
そう言い残して良介は先にエントランスに向かった。
やっと目の前からいなくなって、ほっとした矢先。
「はい。以前、食べたいっておっしゃっていたから。次の大阪出張の時には買って帰ろうと思っていたんです」
「あら、うれしい。じゃあやっぱり上がっていって、一緒に食べましょう。ちょっとした来客中なんだけど」
「それならなおさら今日は遠慮します。そのお客様にでもお出ししてください。では」
「あら、もう」
環さんは不服そうだったけれど、話しはじめると楽しくなってついついいつも長居してしまう。だから今日はさっさとお暇することにした。
「大きな仕事のチャンス巡ってきそうなんです。今日はしっかり休んで、明日から頑張らなきゃ」
「本当に? よかったじゃない。でもあまり無理しないでね。また近いうちに遊びに来てね」
「はい。もちろんです」
玄関で短いやり取りをして、自宅に向かう。
大阪出張中に大野君から連絡があった。
グランオクトホテルから宿泊受付システムの入れ替えの依頼があったようだ。もちろん他社と競うことになり、プレゼンに参加して仕事を勝ち取ることになる。久しぶりの大型案件に社内の士気が上がっている。
その担当を私と大野君がやることになったのだ。
若手のふたりで担当することに反対の社員もいたようだが、普段の頑張りを見てもらって担当できることになったのは素直に喜ぶべきことだ。
体は疲れているはずなのに、やる気に満ち溢れている。
今回の大阪出張の成果も上々、新しい仕事も楽しそうだ。
だからきっと上司が元夫だったとしても、これまで通りなんら問題なく仕事ができると信じている。
それから約二十日間。八月下旬グランドオクトホテルのプレゼンのために私は謀殺された。
もう少し時間があればいいのだけれど、せっかく巡ってきたチャンスだから妥協はしたくない。
私と大野君は他のメンバーたちの知恵と労力を借りながら、なんとかプレゼン資料を仕上げた。
他の顧客の業務ももちろん平行しているので、毎日終電で帰る日々。
それでも私も大野君も前向きにグランドオクトホテルの仕事を受注するべく全力で取り組んでいた。
そしてとうとうプレゼンの当日。私と大野君。それから良介も同行してグランドオクトホテルのシステム部の窓口社員数人と決裁者の前でプレゼンを行った。
普段はカフェラウンジを利用する会社で、こんな風に仕事をするとは思わなかったが、もし自社のシステムが利用されるならでうれしい。
「では、始めさせていだきます」
プレゼンは順調に進んでいく。
今回は大野君がメインで進行している。社歴は浅いが落ち着いてゆっくり話をする彼はこういった場を任せるのがいい。時々私が補佐をする形をといっている。
良介は先方から出てきた質問を私か大野君に投げるという仕事をしていた。今回は責任者も同席しており、こちらも本気だと印象づけるという役割だからこれでいい。
「ありがとうございました。結果は追って連絡します」
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございました」
深々と挨拶をして部屋を出た。私と大野君ははぁと息を吐きやっと緊張を解く。
「お疲れ様。相手の感触も上々だったな」
良介は頑張った大野君をねぎらっている。彼は昔から仕事ではこうやって周囲への気遣いを見せる人だった。
「すみません、ちょっと」
三人で話をしているときに、大野君のスマートフォンに着信が入った。彼は頭を下げてその場から離れる。
ふたりきりになったとたん、良介の態度が豹変する。
「あの程度資料に半月以上費やしたのか、お前の指導はどうなっているんだ」
「……申し訳ありません」
ただただ頭を下げた。ここで言い争いをしても何もいいことはないからだ。しかし心の中では不満が吹き荒れている。
上司ならばあの資料を作成するのに、たくさんの人のアイデアや労力が費やされたのを知っているはずだ。
それなのに、感触のよかったプレゼンの後にこんな言い方をするなんて。大野君の前ではいい上司の顔をしていたのに。
また前みたいに、私の言葉に誰も耳をかたむけてくれなかったらどうしよう。いや、でも今はこの場を収めるのが先決だ。おびえている場合じゃない。
「私が他の業務に時間がかかってしまい、満足のいく資料作りができずにすみませんでした」
「業務の見積もりを間違えるなんて、いったい社会人何年目なんだ」
「申し訳ありません」
悔しいけれどここは我慢をするべきだ。
「俺は前の上司とは違う、もちろん佐久間さんは知っているだろう。甘えたことは許さないからな。次からはしっかりやるように」
そう言い残して良介は先にエントランスに向かった。
やっと目の前からいなくなって、ほっとした矢先。