バツイチですが、クールな御曹司に熱情愛で満たされてます!?
「どうやらシステム部へのプレゼンを終わらせた後に立ち寄ったようですね」
京本はタブレットを操作しながら、世間話のように俺に聞かせる。
「突然の依頼だったのに、素晴らしい仕事ぶりだとシステム部の部長が言っていましたよ」
「そうか」
彼女の勤める御門システムズ株式会社は中堅どころのIT企業だ。ここ最近は大手の会社への実績もあり、細やかなサービスが売りの勢いのある会社だ。
取引先からの評判は上々。紹介で仕事を取ることも多く、それだけ顧客からの信頼が厚いのだろう。
本当は今回のプレゼンには参加予定ではなかった。しかし会社の評判が良いことに加え、彼女の仕事ぶりを見てみたいと思って依頼したのだ。
御門システムズと取引をするかどうかは、システム部に決定権がある。もちろんシステム部の部長には俺と彼女の関係は知らせていない。
採用に当たって忖度があれば、きっと彼女はよく思わないだろう。
そこまで考えている自分を不思議に思う。俺が彼女のなにを知っているというのだ。
半ば心ここにあらずで、京本の報告を受ける。
「以上のことはすべて文書にまとめて提出いたします。本日はここで失礼いたします」
「あぁ、ご苦労様」
仕事を終えた京本が執務室を出ていった。
椅子に座って先ほど渡された封筒を開く。ご丁寧にあの日のワンピースと紅茶の代金が入っていた。
紅茶は祖母に届けたものだろう。バカ正直に支払いをしなくてもいいだろうに。
こんなところに彼女の実直さを感じる。
知れば知るほど、彼女が当初俺が想像していた人物像とはかけ離れていく。
最初はなんらかの思惑があって、祖母と関わっているとしか思えなかった。なんのメリットもなく、他人に手を差し伸べる人物がいるとは思えなかったからだ。
小さな頃からずっと競争をして、そして勝ち続けることを求められてきた。
その生き方が嫌だと思ったことはない。
だがそういう環境の中で生きていなかった彼女のような人物の存在を、信じられずにいた。
彼女と初めて会話を交わした日、先月彼女が書いたお客様アンケートを見つけて読んだ。
几帳面な字で温かい言葉が並んでいる。
顧客のアンケートはどんな内容であってもすべて確認するようにしているのだが、やけに目につく。
それが彼女のものだと知って、なんとなく先ほど会った女性とぴったりだと思った。
今月の初めの頃だっただろうか。
いつも通り仕事の合間に、祖母の家に顔を出している時だった。
チャイムが鳴り、祖母が対応している。その様子を客間で聞いていた。声を聞いて相手がすぐに彼女だと気が付く。
どうやら大阪出張の土産を、祖母に持ってきたようだ。
肉まんって……この間はたしか団子だったな。
そのセレクトが、なんとなく飾らない彼女らしいと思う。
祖母が中に入るように言ったけれど、彼女は固辞して帰っていった。
「振られちゃったな」
客間に戻ってきた祖母に声をかけると、本当に残念そうな顔をしていた。
「お仕事が忙しいんですって、ひとりで食べてもさみしいから、一緒に食べない? 肉まん」
「ありがとう。いただくよ」
祖母が温めてくれた肉まんをふたりで食べる。
「うまいな」
「うん、美味しいわね」
最近食が細くなってきた祖母だったが、美味しそうに食べている。
「さっきの人、最近よく来るお友達だろ?」
「そうよ。知っているでしょう。どうせ彼女についても調べたんだろうから」
祖母も気が付いていたようだ。過去に詐欺未遂事件があったことから祖母は、調査自体を咎めることはなかった。
「佐久間伊都さんね。実はホテルで見かけて声をかけたんだ」
「だったらさっき声をかければよかったのに」
確かに挨拶くらいはしてもよかった。
「なんでだろうな」
「私との関係をまだ言っていないのでしょう? 隠し事は早めに知らせておく方がいいわよ」
「別に隠しているわけじゃないんだが」
ただタイミングがないだけだ。しかしどういう風に伝えれば自然と納得してもらえるのかとも考える。
「ふーん。まあ伊都ちゃんいい子だものね。失敗したくないのもわかるわ」
知った顔をする祖母は、俺の様子を見ておもしろがっているようだ。
「失敗? 俺の辞書にはない言葉だな」
「あら自信満々ね。今、彼女いい人いないみたいよ」
おせっかいな祖母を軽くにらんでみせる。
「なんで俺にそれを言うんだ?」
「別に。ただどんな形であれ彼女を傷つけるようなことがあれば、私はたとえ愛する孫の恭弥であろうとも許さないわよ」
「孫よりも彼女を大切にするのか?」
非難の目を向けたが、祖母はまったく気にしていない。
「あら、もちろんよ。大切な友達だもの」
祖母の彼女に対する信頼はかなりのものだ。
京本はタブレットを操作しながら、世間話のように俺に聞かせる。
「突然の依頼だったのに、素晴らしい仕事ぶりだとシステム部の部長が言っていましたよ」
「そうか」
彼女の勤める御門システムズ株式会社は中堅どころのIT企業だ。ここ最近は大手の会社への実績もあり、細やかなサービスが売りの勢いのある会社だ。
取引先からの評判は上々。紹介で仕事を取ることも多く、それだけ顧客からの信頼が厚いのだろう。
本当は今回のプレゼンには参加予定ではなかった。しかし会社の評判が良いことに加え、彼女の仕事ぶりを見てみたいと思って依頼したのだ。
御門システムズと取引をするかどうかは、システム部に決定権がある。もちろんシステム部の部長には俺と彼女の関係は知らせていない。
採用に当たって忖度があれば、きっと彼女はよく思わないだろう。
そこまで考えている自分を不思議に思う。俺が彼女のなにを知っているというのだ。
半ば心ここにあらずで、京本の報告を受ける。
「以上のことはすべて文書にまとめて提出いたします。本日はここで失礼いたします」
「あぁ、ご苦労様」
仕事を終えた京本が執務室を出ていった。
椅子に座って先ほど渡された封筒を開く。ご丁寧にあの日のワンピースと紅茶の代金が入っていた。
紅茶は祖母に届けたものだろう。バカ正直に支払いをしなくてもいいだろうに。
こんなところに彼女の実直さを感じる。
知れば知るほど、彼女が当初俺が想像していた人物像とはかけ離れていく。
最初はなんらかの思惑があって、祖母と関わっているとしか思えなかった。なんのメリットもなく、他人に手を差し伸べる人物がいるとは思えなかったからだ。
小さな頃からずっと競争をして、そして勝ち続けることを求められてきた。
その生き方が嫌だと思ったことはない。
だがそういう環境の中で生きていなかった彼女のような人物の存在を、信じられずにいた。
彼女と初めて会話を交わした日、先月彼女が書いたお客様アンケートを見つけて読んだ。
几帳面な字で温かい言葉が並んでいる。
顧客のアンケートはどんな内容であってもすべて確認するようにしているのだが、やけに目につく。
それが彼女のものだと知って、なんとなく先ほど会った女性とぴったりだと思った。
今月の初めの頃だっただろうか。
いつも通り仕事の合間に、祖母の家に顔を出している時だった。
チャイムが鳴り、祖母が対応している。その様子を客間で聞いていた。声を聞いて相手がすぐに彼女だと気が付く。
どうやら大阪出張の土産を、祖母に持ってきたようだ。
肉まんって……この間はたしか団子だったな。
そのセレクトが、なんとなく飾らない彼女らしいと思う。
祖母が中に入るように言ったけれど、彼女は固辞して帰っていった。
「振られちゃったな」
客間に戻ってきた祖母に声をかけると、本当に残念そうな顔をしていた。
「お仕事が忙しいんですって、ひとりで食べてもさみしいから、一緒に食べない? 肉まん」
「ありがとう。いただくよ」
祖母が温めてくれた肉まんをふたりで食べる。
「うまいな」
「うん、美味しいわね」
最近食が細くなってきた祖母だったが、美味しそうに食べている。
「さっきの人、最近よく来るお友達だろ?」
「そうよ。知っているでしょう。どうせ彼女についても調べたんだろうから」
祖母も気が付いていたようだ。過去に詐欺未遂事件があったことから祖母は、調査自体を咎めることはなかった。
「佐久間伊都さんね。実はホテルで見かけて声をかけたんだ」
「だったらさっき声をかければよかったのに」
確かに挨拶くらいはしてもよかった。
「なんでだろうな」
「私との関係をまだ言っていないのでしょう? 隠し事は早めに知らせておく方がいいわよ」
「別に隠しているわけじゃないんだが」
ただタイミングがないだけだ。しかしどういう風に伝えれば自然と納得してもらえるのかとも考える。
「ふーん。まあ伊都ちゃんいい子だものね。失敗したくないのもわかるわ」
知った顔をする祖母は、俺の様子を見ておもしろがっているようだ。
「失敗? 俺の辞書にはない言葉だな」
「あら自信満々ね。今、彼女いい人いないみたいよ」
おせっかいな祖母を軽くにらんでみせる。
「なんで俺にそれを言うんだ?」
「別に。ただどんな形であれ彼女を傷つけるようなことがあれば、私はたとえ愛する孫の恭弥であろうとも許さないわよ」
「孫よりも彼女を大切にするのか?」
非難の目を向けたが、祖母はまったく気にしていない。
「あら、もちろんよ。大切な友達だもの」
祖母の彼女に対する信頼はかなりのものだ。